“アンパンマン仮面”の不審者

“アンパンマン仮面”の不審者
「アンパンマンのお面をかぶった不審者が子どもを車に連れ込もうとしたらしい」
連れ去りへの注意を呼びかける、そんな情報がツイッターなどで広まっています。“車のナンバー”“お面の特徴”“手口”拡散されるたびに具体的な情報がどんどん加わってきています。行政も不審者情報として発信し、注意を呼びかけました。
悪のアンパンマンはいたのでしょうか?
ある記者の元にもこの情報が届きました。13日の夕方、ママ友からのLINEです。
「6月7日に●●公園の近くで、アンパンマンとメロンパンナのお面を被っている2人組に子どもが腕を捕まれ、車に連れ込まれそうになったそうです」

6月7日●●公園

ある記者の元にもこの情報が届きました。13日の夕方、ママ友からのLINEです。
「6月7日に●●公園の近くで、アンパンマンとメロンパンナのお面を被っている2人組に子どもが腕を捕まれ、車に連れ込まれそうになったそうです」
真実味を帯びた詳細な情報も、送られてきました。
「車は紺のフォルクスワーゲン、スポーツタイプでナンバーは上が371」
そして気味の悪い話が続きます。
「2人組で行動していてメロンパンナ、アンパンマン、マリオなどお面を日替わりで付け替えているらしい」

情報は横浜市が中心。出没場所や被害の具体的な状況もあり、ツイッターを見てみると同じような情報が多くリツイートされていました。子どもが「アンパンマンだ!」と喜んでついて行ったら大変です。気になって調べてみることにしました。

不審者情報の発信

ツイッターの投稿の中には、横浜市の鶴見区が出した「不審者情報」の文書の写真もありました。

「複数の保育所から、こどもがアンパンマンのお面をかぶった若い男性に車中から声をかけられたとの情報がありました」
「警戒を強めてくださいますようお願いします」
文書を作った鶴見区の子ども家庭支援課に問い合わせてみました。文書を出したきっかけは次のとおりでした。

・6月7日、2つの保育園から「“アンパンマンのお面をかぶった不審者が出たという話を聞いた”と、保護者が言っていた」という情報が寄せられる。
・伝聞の情報だが2つの園から同じ内容が寄せられていた。
・このため幼稚園や保育園に文書をFAXした。

実際に目撃した確かな情報ではないが、複数の保育園から情報があがってきたため、念のために発信した情報のようです。目撃者はいるのでしょうか。警察に聞きました。

警察の捜査は…

「目撃情報は…入っていません」
話してくれたのは情報が広まっている横浜市内の警察署です。

「アンパンマンのお面をかぶった不審者が子どもを連れ去ろうとした情報が広まっているのは把握しています。ただ担当する地域でお面をかぶった不審者に連れ去られそうになったり、そうした不審者を目撃したりしたという情報はないですね」

小学生が被害に?

行政にも聞いてみました。広まっている情報の中には、横浜市内の小学校名を挙げて「1年生が腕をつかまれた」というものもあります。
そこで市の教育委員会の事務所に問い合わせてみました。

「子どもが被害に遭えばすぐに連絡があるはずですが、そうした情報は…入っていないですね」

警察にも行政にも目撃情報がないまま、悪のアンパンマンの情報が広まっているようでした。

6月1日夕方

ではいつからどのようにこの情報が広まったのか、「アンパンマン」「お面」、両方の言葉を含むツイートやリツイートの数を分析してみました。
その結果、不審者に関連するツイートで最も古いものは、6月1日の夕方とわかりました。

以下の内容のツイートでした。

「●●(家電量販店)の付近、●●駅付近で、下校中の子どもたちがアンパンマンのお面をかぶった人に話しかけられて、車に乗せられそうになったそうです!」

このツイートはすでに削除されていて、話を聞こうとメッセージを送りましたが、今のところ返事はありません。ただ、こうした伝聞調の不審者情報は同じ日の夜のうちに「車は紺のフォルクスワーゲン、スポーツタイプ」「ナンバーは上が371」といったように具体的な情報とともに発信されるようになります。
「アンパンマン」と「お面」を含むツイートの数は6月5日には100件あまりに増加。8日には約240件、10日には640件を超えています。「注意してください!」「緊急拡散希望」といった危機感のある言葉とともに、急激に広がっていったのです。

「●●公園の近くでも出たそうです」
「●●小学校の保護者からも不審者情報入りました」

新たな地名が追加されるたびに、その地域の住民を中心に拡散していることがうかがえました。そして分析した2300余りのツイートのうち、「不審者を見た」「家族や知り合いが不審者を見た」という実際の目撃情報を探してみました。その数は“0”でした。

拡散されやすい要素が

目撃者もなく、実態が不確かなまま広まった“悪のアンパンマン”。
ただ社会心理学が専門の新潟青陵大学の碓井真史教授は、「今回の不審者情報は、拡散されやすい要素がたくさんある」と指摘しています。
新潟青陵大学 碓井真史教授
要素(1)「命に関わることや緊急性のある情報」
今回でいうと、“弱い立場の子どもが知らない人に車で連れ去られる”そんな危機感が早く多くの人に知らせなければという気持ちをかきたてるように感じます。

要素(2)「あいまいな段階の情報」
“まだあまり知られていない自分たちだけの情報”そう感じると、人は多くの人に知らせたくなるようです。

要素(3)「伝えたくなる要素がある情報」
不気味で恐怖感を感じる「口さけ女」や「人面犬」が典型です。“正義のアンパンマンのお面をかぶる”不審者は、“ただの”不審者より、不気味な分、他の人に伝えたくなるのです。

「不審者に気をつける気持ちは常に持っているべきですが、子どもにただ不確かな情報を伝えていては、怖がらせてしまいます。大人は落ち着いて情報を受け止めること。また必要以上に怖がらせることなく不審者がいたらどうするかを伝えることが大切だと思います」(碓井教授)

情報を発信するマナー

インターネットの利用の在り方などに詳しい千葉大学教育学部の藤川大祐教授は情報がパニックにつながることもあり、情報を広める時に、注意が必要だと話しています。
千葉大学教育学部 藤川大祐教授
「新潟市で下校中の小学生が殺害される事件があって、警戒心がより高まったのかもしれません。もちろん警戒するにこしたことはないです」
「ただ今回は伝聞の書き込みが多い。東日本大震災でも出どころのわからない情報が出回り、結果的にデマだったことがありました」
「情報がパニックにつながることもあります。リスクのある情報を発信する際は情報の出どころを明確にすることが、今の時代のマナーだと思います」

鎌倉市の対応、そして

今回の事案、神奈川県鎌倉市も13日の夜に「鎌倉市内に拡散している不審者情報について」というタイトルでメールを配信しています。

ただ内容がひと工夫されていました。
「アンパンマンなどのお面を被った二人組が車で児童を連れ去ろうとしたという事案の情報が市内で拡散しています。事実確認を行ったところ、鎌倉市内におけるこのような事案発生の情報はありませんでした」
市は幼稚園で不審者情報が広まっていることを知り、警察などに確認。連れ去り事案はないことを確かめたうえで、情報を発信したのです。

また、ツイッターを見てみても、「警察に確認をしたら捜査をしたが、被害者は見つからないと言っていた」
「地元の警察に念のため確認した。被害はなかった」といった投稿もありました。

ただ、事実を確かめた情報は広く拡散せず、不確かな、でも不気味な情報のほうがどんどん広まっていった、それが「悪のアンパンマン」の今のところの実態です。