ゴキブリ100万匹!? 見て考えた

ゴキブリ100万匹!? 見て考えた
暖かくなってくると目にする機会が増える「ゴキブリ」や「ハエ」。「100万匹のゴキブリ」を飼育する世界最大級の研究所があると聞き、どんな研究が行われているのか訪ねました。そこで見たもの、考えたことは。(ネットワーク報道部記者 後藤岳彦)
私が訪ねたのは、兵庫県赤穂市郊外にある研究所です。蚊やゴキブリの駆除に使う殺虫剤や「ごきぶりホイホイ」などで知られる「アース製薬」の研究所です。

東京ドーム2個分の敷地の一角にある研究所で飼育されているのは、ゴキブリや蚊、ハエ、ノミ、さらにはタランチュラ!およそ100種類。

「ゴキブリ100万匹、蚊5万匹、ハエ5万匹、ダニ1億匹を飼育しています」。
そう話すのは、ゴキブリなどの飼育・研究に20年間、関わってきたアース製薬の生物研究課課長の有吉立さん。

1匹見たら100匹いる

私が訪ねたのは、兵庫県赤穂市郊外にある研究所です。蚊やゴキブリの駆除に使う殺虫剤や「ごきぶりホイホイ」などで知られる「アース製薬」の研究所です。

東京ドーム2個分の敷地の一角にある研究所で飼育されているのは、ゴキブリや蚊、ハエ、ノミ、さらにはタランチュラ!およそ100種類。

「ゴキブリ100万匹、蚊5万匹、ハエ5万匹、ダニ1億匹を飼育しています」。
そう話すのは、ゴキブリなどの飼育・研究に20年間、関わってきたアース製薬の生物研究課課長の有吉立さん。
有吉さんに案内され、壁が白い幕に覆われた部屋に入ると「目を閉じてください」と言われました。嫌な予感がしつつも、有吉さんの合図で目をあけると絶句…。白い部屋が真っ黒に感じるほど。数え切れないゴキブリです。

家でよく見る「クロゴキブリ」、暖房設備のあるビルやレストランなどに多い「ワモンゴキブリ」、世界各地に分布する「チャバネゴキブリ」など、およそ20種類を飼育しています。
温度は、ゴキブリが生息しやすい25度ほど。1週間に20キロもの餌を与え、健康状態は万全です。

ゴキブリのうち、オスは室内を動き回りますが、メスは筒などにこもっていることが多いそうです。
卵を産むメスを駆除することが重要ですが、こもりがちなメスを捕まえるのは難しいそうです。
「1匹見たら100匹いる」と思った方がいいそうです。

また、ゴキブリは、触覚と尾毛がよく発達しています。後ろからたたこうとしてもよく逃げられてしまうのは、この尾毛が空気の動きを察知できるからなんです。

「今でも好きになれない」と言いながら、ゴキブリを手に「よく見るとかわいいんですよ」(有吉さん)

殺虫剤から虫ケア用品?

研究所の虫は、殺虫剤の効果や安全性を確認する試験に使われています。

大切に育てたゴキブリを地面に放し殺虫剤を噴射。どのぐらいの距離で死んだのか計測します。噴射の範囲で効果がどう違うのかも確かめます。
蚊の飼育場所では、虫除けスプレーの効果を確かめる実験。私も試してみました。虫除けスプレーは、均一に伸ばさないと塗っただけではムラがあり、効果が薄れるということです。

ダニは防虫剤を入れる場合と入れない場合を比較して、衣服をどれだけ守れるか確認します。
会社では、安心して使ってほしいと、ホームページなどで商品の紹介を「殺虫剤」から「虫ケア用品」と変えています。これに対しネットでは「虫が元気になりそう」など疑問の声も多くありますが、会社の狙いは、人体に有害という印象を変え、「虫から守る」という意味を込めているのだそうです。

ホイホイは世界に

世界各地で使われている商品もここから生まれました。
ゴキブリは、昭和30年代から40年代は、写真のようなケースに誘導して、水に沈めて駆除していました。
ただ、どうしてもゴキブリの姿が見えてしまいます。そこで、粘着剤を箱に塗ることで、ゴキブリを見ることなく駆除できるようにできないかと考えて生まれたのが「ごきぶりホイホイ」。
その後、研究・改良を進め、粘着力は強化され、重量15キロのドラム缶を持ち上げることができるほどになりました。今はアジアやアメリカ、ヨーロッパなど世界37か国に輸出されています。

外来生物リスクに備え

今、研究所が対応に追われているのは新たな外来生物です。セアカゴケグモやヒアリ、デング熱など、海外から持ち込まれた外来生物や感染症のニュースが毎年のように話題となります。

去年夏、国内で初めて確認された強い毒を持つ南米原産の「ヒアリ」。多くのヒアリが発生している台湾に研究員が足を運び、既存の殺虫剤がヒアリに効果があるかどうか確認しました。
その結果、アリを駆除する既存の商品で、十分効果があることを確認し、生産を増やして対応しました。

新しい害虫が見つかったとき、駆除に既存の製品で対応できるのか、新たな製品の開発が必要なのか判断しなければなりません。

有吉さんたち研究員は、「虫で苦しむ人を1人でも減らすためにも、この虫たちが必要です。新たな外来生物にも対応できるような製品を開発していきたい」などと話していました。

増えるトコジラミ

「100万匹のゴキブリ」から「外来生物」。どんなリスクがあるのか、専門家に詳しい話を聞きました。

サングラス姿の昆虫学者、この分野の第一人者、国立環境研究所の生態リスク評価・対策研究室の室長、五箇公一さんです。
すでに海外から持ち込まれた実例として、「トコジラミ」いわゆる「ナンキンムシ」を挙げました。体長が5ミリから8ミリほどで、血を吸われると強いかゆみがするのが特徴で、駆除を進めた結果、昭和40年ごろから国内では被害の報告はほとんどなくなっていました。

しかし、「トコジラミ」の相談件数は、東京都によると平成28年度は278件と、10年前に比べ4倍近くに増えています。
画像提供 国立感染症研究所
アメリカやヨーロッパではすでに被害が問題となり、国内の被害の中心が、最初は外国人観光客が多いホテルや旅館だったことから、スーツケースなどに潜んでいたトコジラミが広がったとみられています。

最近は宿泊施設だけでなく、一般家庭にも被害が広がり、老人ホームや病院などでも発生しているケースもあるということです。トコジラミは一般的な殺虫剤が効かないことも多く、専門的な駆除が必要なケースが多いのが現状です。

花見が出来なくなる?

さらに五箇さんは、桜の木などを食い荒らす特定外来生物の「クビアカツヤカミキリ」の被害も深刻だといいます。「クビアカツヤカミキリ」は、中国やベトナムなどが原産で、幼虫が桜の木などの内部を食い荒らします。
東京都や埼玉県、大阪府などで被害が発生していますが、今のところ、桜の木を切る以外に対策はなく、五箇さんは「今対策を取らなければ将来、花見ができなくなるおそれもある」と話しています。

次なる脅威 感染症も

また、次に日本を脅かすかもしれない外来生物として、カメムシの仲間「ブラジルサシガメ」を挙げました。驚いたのは、研究所の研究員が次なる脅威として口にしていたのもこの虫でした。

ブラジルサシガメは人の血を吸う害虫で、血を吸う時にふんをしますが、その中に「トリパノソーマ」という原虫が混じっています。ふんに含まれた原虫が傷口などから入ることで、「シャーガス病」という感染症にかかることがあり、心臓肥大などの合併症、さらに突然死につながることもあります。
画像提供 国立感染症研究所
国内でブラジルサシガメは確認されていませんが、五箇さんによると、5年前、中南米出身の男性に行った血液検査で「シャーガス病」の陽性反応が国内で初めて確認されました。

男性は複数回、国内で献血し輸血された人もいたため、国などが調査しましたが、感染は確認されなかったということです。

しかし、グローバル化が進む中、五箇さんは「コンテナの荷物や農作物などに付着し、いつ日本に入ってきてもおかしくない」と指摘しています。そのうえで、外来生物の侵入リスクに備えるためには、見つけたら水際でしっかりと根絶する、その繰り返しが大切だといいます。

ゴキブリやダニなど1億匹の虫を飼育して進められている研究も直面する外来生物の水際対策につながっているのです。研究所を訪ね、育てられては殺される無数の虫たちを見て、こう考えました。
「100万匹のゴキブリに感謝」