電車の中、母親はなぜ座らないのか

電車の中、母親はなぜ座らないのか
電車の中。席に座っていると赤ちゃんを抱いてあやしている母親が目の前に。「あ、あのよかったら座りますか?」。親切心から声をかけました。しかし答えは…「NO」。
「い、いえ、大丈夫です。立っていますから」。こうした報告がネット上に飛び交っています。なぜ、母は座らないのか。
研究者もなぞを探るため実験に乗り出しました。(ネットワーク報道部記者 高橋大地 大窪奈緒子)
「電車で赤ちゃんをだっこしている女性に席を譲ろうとしたら拒否されてショック」。
そんなツイートに多くの意見が寄せられました。

このツイート「赤ちゃんはいすに座ると起きて泣くセンサーが搭載されている…」と続きます。

これに対して「わかります!。うちのちびっ子も座ると泣くセンサーを搭載してました」。「うちもでした!寝たからと思って座るとまた泣き出す…」などなど。

座ると泣き出すセンサー搭載

「電車で赤ちゃんをだっこしている女性に席を譲ろうとしたら拒否されてショック」。
そんなツイートに多くの意見が寄せられました。

このツイート「赤ちゃんはいすに座ると起きて泣くセンサーが搭載されている…」と続きます。

これに対して「わかります!。うちのちびっ子も座ると泣くセンサーを搭載してました」。「うちもでした!寝たからと思って座るとまた泣き出す…」などなど。

私も私も

実際はどうなのでしょうか。街で聞いてみました。

2歳と8か月の2人の女の子を育てている30代の夫婦は同じような経験があると話しました。
「立ってだっこされるとご機嫌でいてくれます。席をゆずっていただいても、子どもが泣いてしまい、周りに迷惑だと思って席をお戻ししたこともありました」

1歳4か月の女の子がいる30代の母親も同じ意見でした。

「座席に座って泣いてしまうことは特に0歳のころよくありました。電車では今も、ベビーカーは荷物置きでほとんどだっこです」

「遠慮しているのかな?」

一方、こうした実態は、広くは知られていないようです。

漫画家の横山了一さんが独身時代を振り返って描いたマンガです。
横山了一さんのマンガ
電車の中で赤ちゃんをだっこして大変そうなお母さんを見た横山さん。席を立ち「よかったら座りますか?」とやさしく声をかけます。しかし、見るからにつらそうな母親から「い、、、いえ、大丈夫です!立ってますから!」と言われてしまうのです。

横山さんは当時、どうして立っているのか理由がわからなかったそうです。

「お母さんが、座ることに遠慮しているのかな?くらいにしか思っていませんでした」

いま8歳の男の子と5歳の女の子がいる横山さん。
育児経験を通じて、泣き出すのを避けようとしたお母さんの気持ちがわかるようになったそうです。

科学が証明 親が歩くとリラックス

なぜ、座ると赤ちゃんが泣き出すのか、科学的に検証した研究がありました。検証したのは理化学研究所を中心にした研究グループ。

母親に赤ちゃんを抱いたまま立って歩いたり座ったりを繰り返してもらい赤ちゃんの変化を調べたのです。
画像提供 理化学研究所親和性社会行動研究チーム
12組の母子で調査した結果「母親が歩いてる時は座っている時に比べて、赤ちゃんの泣く量がおよそ10分の1」。

「同様に足をばたつかせるなどの運動量はおよそ5分の1」。

お母さんたちの経験を裏付ける結果となりました。
画像提供 理化学研究所親和性社会行動研究チーム
そして研究者が注目したのが赤ちゃんの心拍数です。

「座っていた母親が歩き始めると3秒くらいで心拍数は急激に下がる。再び座ると直後から上がっていく」。

母親が抱きながら歩く時は赤ちゃんの体そのものがリラックス状態=電車の中で立った母親に抱かれ揺れている時はリラックス状態だったのです。

実は哺乳類はみな同じ

同じような親子の行動は、ネコ、ライオン、リスなどさまざまな哺乳類でも見られるといいます。

母親が子どもの首を口にくわえ、歩いて巣や安全な場所に運ぶような時には、心拍数が低下したリラックス状態だそうです。

サルや人間の場合は、首の後ろではなく赤ちゃんのおなかが親の体に密着している、つまりだっこかおんぶをしていることでリラックスできると言います。
一連の行動について研究チームの黒田公美さんはこう分析しています。

「動物にとって、運ばれているという状態は、危険が迫るなど緊急事態である可能性が高い。子ども自身が生き延びる確率を高めるためおとなしくなっている」

「一方、移動していない時は危険が迫っていない。おとなしくする必要はなく、おっぱいをねだったり、不快感を表したりしても問題が無い。
座ってだっこした赤ちゃんが泣くのは普通のことなんです」

立ったり移動したりしている時におとなしいのは、親に協力するためとも考えられるそうです。

でも親には座ってほしい

研究結果は結果として黒田さんはこう注意を呼びかけています。

「急停車で転倒する危険もあるので、安全面を考えれば、席を譲られたら座るのが一番よいです。座ってもおとなしいままのこともあります。周りも“譲らなくていいんだ”ではなく、大変そうな親子にはぜひ声かけをしてほしい」

座れなくてもうれしかった

この取材を通して話を聞いたお父さんお母さん皆さんに共通していたことがあります。

それは、「席に座りますか?」と声をかけてもらえて、「とってもうれしかった」「いったんでも座れてありがたかった」と何度もうなずきながら、しみじみと話してくれたことです。

乳幼児を連れての電車移動などは「ぐずりだしたらどうしよう」。
「大声で泣いたら途中の駅で降りようか・・」。
「転んだら大変だから座ろうか、でも泣いちゃうかな」。

お父さんお母さんたち、思った以上に気を使って子どもと乗っているようです。あるお母さんは、「子どもの機嫌によっては席を遠慮することもあり、せっかくの申し出に申し訳ない気持ちになります。でも子どもと子育てしている自分を応援してくれているのだと、少なくともうれしい気持ちになることは間違いないです」と話していました。

「子育て応援してるよ」「大丈夫?」いろんな意味を込めてどうぞ赤ちゃんとお母さんやお父さんに声をかけてみてください。

研究にもあるように、なかなかすぐには席に座ることができないことも多々あるかもしれません。だけど、声をかけた優しさと勇気は親子にはしっかり伝わっていて、それは回り回って、私たちの未来にだってつながっていくと思うのです。