摂食障害でなぜ犯罪に…

摂食障害でなぜ犯罪に…
「本件犯行は、摂食障害が背景にあることがうかがわれる」 今月8日、万引きの罪に問われた被告に有罪判決が言い渡されました。被告は、女子マラソンの元日本代表選手で、現役時代から摂食障害に苦しんでいました。実は、摂食障害の人が、万引きにはしるケースはほかにも相次いで報告されています。(宇都宮局記者 有馬護 ネットワーク報道部記者 吉永なつみ)
法廷に現れた30代の被告は、およそ10年前、国内で行われた国際女子マラソン大会で優勝し、同じ年にヨーロッパで行われた世界選手権に日本代表として出場して入賞を果たしました。

やせた体の被告は、みずからの摂食障害と万引きについて、次のように証言しました。

「実業団時代に厳しい体重制限のストレスで摂食障害になり、引退後もストレスがあると、食べては吐いていた。摂食障害になったあと、食べ物を万引きするようになった。今回は初めて、食べ物以外も盗もうと思った」

被告は、ことし7月、栃木県内のコンビニエンスストアで、化粧品や食料品を万引きした罪に問われましたが、それ以前にも平成26年と平成27年に同じ罪で略式命令を受けていました。

裁判で明かされた摂食障害

法廷に現れた30代の被告は、およそ10年前、国内で行われた国際女子マラソン大会で優勝し、同じ年にヨーロッパで行われた世界選手権に日本代表として出場して入賞を果たしました。

やせた体の被告は、みずからの摂食障害と万引きについて、次のように証言しました。

「実業団時代に厳しい体重制限のストレスで摂食障害になり、引退後もストレスがあると、食べては吐いていた。摂食障害になったあと、食べ物を万引きするようになった。今回は初めて、食べ物以外も盗もうと思った」

被告は、ことし7月、栃木県内のコンビニエンスストアで、化粧品や食料品を万引きした罪に問われましたが、それ以前にも平成26年と平成27年に同じ罪で略式命令を受けていました。
裁判の中で、犯行当時の心境について「つらい思いがぐるぐる回って、解消されたい、捕まって早く楽になりたいと思った」と証言しました。

裁判所は、この日の判決で「窃盗の常習性は顕著だが、犯行は単なる利欲的動機によるものとは言い切れず、酌量の余地がある。犯行後、積極的に摂食障害の治療を受け反省もしている」と指摘。懲役1年、執行猶予3年を言い渡しました。
判決のあと、被告の弁護士は「ほかにも、窃盗を繰り返す被告の弁護を担当することが多いが、ほとんどの人は摂食障害に苦しんでいた」と話しました。摂食障害の人の中には、万引きの常習者が少なくないというのです。

摂食障害の9割は女性

摂食障害は、一般的に、「やせてきれいになりたい」、「体重を落としたい」などという気持ちで始めたダイエットがエスカレートして、発症につながることが多いと言われています。

厚生労働省によりますと、摂食障害は、食料を大量に食べては吐いたり、徹底して食べなかったりする精神障害の1つで、症状が重篤になると、栄養の低下や飢餓状態に陥って命に関わる危険があります。
厚生労働省の調査では、患者数は年間およそ2万3000人と推定され、その9割は女性だということです。摂食障害に伴う異常な行動として、みずからを傷つける行為や万引きなどが挙げられるということです。

なぜ 摂食障害で万引き常習者に

ではなぜ、摂食障害の患者が万引きを繰り返す傾向にあるのか。

東京都内の心療内科クリニックの医師、高木洲一郎さんに聞きました。高木さんは医師になってまもない昭和46年からこれまでに1000人以上の摂食障害の患者を診てきました。
10年ほど前、自身の患者41人にアンケートを行った結果、過去に万引きの経験があると答えた人は、およそ4割にのぼり、ほとんどの人が摂食障害を発症した後に万引きを始めたということです。そして、経験者の全員が複数回、万引きをしたことがあり、経済的に困っている人はいませんでした。
高木医師はアンケート結果などを踏まえ、摂食障害に特有の「抑うつ気分」や「感情が不安定」という心理状態の時に、万引きが行われていると考えています。

ある患者は、犯行当時の心理状態を次のように話しています。

「摂食障害の万引きは、正常な状態で行うのとは違う。頭の中が常に食べ物のことでいっぱいで、ぼーっとして何かにとりつかれたように罪の意識などを考えることなくやってしまう」

高木医師によると、犯行当時の状況をよく覚えてなく、犯罪意識が乏しい中で万引きを行っている点が大きな特徴で、食べることに執着心をもつあまり、食料を買うお金が底をつくことに強い恐怖心を抱くため、とくに食料を盗む傾向がうかがえると指摘します。

そして、こうした不安定な精神状態が正常に戻らない限り、万引きを繰り返すおそれがあるというのです。
もちろん、摂食障害の患者が必ず、万引きをするわけではありませんが、犯罪に至るほど症状が重くなる前に、摂食障害の治療を受けさせることが必要だと高木医師は訴えています。

ただ、摂食障害と万引きとの関係については、専門家の中でもさまざまな見方があります。

例えば、摂食障害も常習的な万引きも、依存症の1つだとする説です。何らかのストレスに直面したときに、一時的にその不安や恐怖を和らげるために食べては吐いたり、盗みを繰り返したりするというものです。

こうした行為そのものに依存するため、やめたいと思いながらも繰り返してしまうとする考え方です。

人とのつながり作って治療

こうした考えに基づいて、万引きの常習者に犯罪を繰り返させない取り組みも始まっています。

東京都内にあるクリニックでは、万引きを繰り返す人を依存症の患者と捉え、通院して治療するプログラムを去年12月から始めました。通院しながら治療するのは、全国でも珍しく、家族や友人の支えを受けながら、犯罪に手を染めずに日常生活を送ることを目標にしています。

プログラムを担当する精神保健福祉士の斉藤章佳さんは、万引き常習者にとって、やることがないことや、生活リズムが崩れることは、盗みにのめり込みやすい悪条件だといいます。
クリニックでは、心理療法などのプログラムを午前9時から午後7時まで用意し、患者が定期的にクリニックに来てプログラムを受けることで、規則正しい生活リズムを身につけてもらえるようにしています。

さらに、毎月1回、クリニックと家族や友人が面会して患者の前では話せない悩みなどにも応じながら今後の治療方針を決めていて、家族などが患者をきちんとケアできるよう支援の態勢を整えています。

斉藤さんは、摂食障害の人や万引きの常習者になりやすいのは、誰かに頼ることが苦手な人だと考えています。治療を通じて人とのつながりを作り、頼る先を複数確保することで精神的な安定を図ろうとしています。

また、プログラムの中では、盗みたいという衝動がどのような時に起きるのかを患者に把握してもらうようにしています。患者は、カレンダーに3色のシールで「盗みたい衝動がなかった日」、「盗みたい衝動が起きた日」などを毎日記録していきます。
例えば、盗みたい衝動が起きた日が週末に集中した場合、「週末には店には近づかない」といった具体的な対策をとることができると言います。

摂食障害を伴う人を含め、これまでにおよそ40人の患者が参加していて、多くの人に症状の改善が見られるということです。

目標は「普通に買い物ができること」

摂食障害は、完璧主義の性格の人や厳しい習い事や教育を受けていた人が、何らかのストレスが引き金になってかかる傾向があると言われ、比較的、多くの人が陥りやすい精神障害と言えるかもしれません。

取材した高木医師によりますと、適切な治療を受ければ摂食障害は治るということで、今月8日に万引きの罪で有罪判決を言い渡された女子マラソンの元選手も、家族の支えを受けながら治療を受けています。
今後の目標は「普通に買い物ができるようになること」だそうです。

次こそは、犯罪を繰り返さずに更生してほしい、そう願わずにはいられません。