トランプ政権 ユネスコ脱退を表明 「反イスラエル的」と批判

トランプ政権 ユネスコ脱退を表明 「反イスラエル的」と批判
k10011176341_201710130612_201710130617.mp4
アメリカのトランプ政権は、ユネスコ=国連教育科学文化機関について、「反イスラエル的だ」として脱退する意向を明らかにし、中東の同盟国イスラエル寄りの姿勢を鮮明にしました。
アメリカ国務省のナウアート報道官は12日、声明を発表し、ユネスコに脱退の意向を伝えたことを明らかにしました。そして、「ユネスコは反イスラエル的だ」と指摘するとともに、抜本的な組織改革が必要だという考えを強調しました。

さらにナウアート報道官は、記者会見でも「ユネスコが政治から距離を置くことを望む。反イスラエル的な偏見を持つべきではない」と述べ、ユネスコが政治的な中立性を欠いているとして、批判しました。

ユネスコはことし7月、ヨルダン川西岸にあるヘブロン旧市街をパレスチナの世界遺産に登録することを決定し、パレスチナと対立を続けるイスラエル側が、ユダヤ教との関わりが無視されていると強く反発していました。

ユネスコを巡ってアメリカは、政治的に中立の立場が保たれていないなどとして1984年に脱退し、2003年に復帰しましたが、その後、2011年に、ユネスコがパレスチナの正式加盟を認めたことに反発し、オバマ前政権が分担金の拠出を凍結していました。

分担金の拠出を凍結して以降、アメリカの滞納の額は5億4000万ドル余り、日本円で600億円余りに膨らんでいて、ナウアート報道官はこのことにも、脱退の判断に影響を与えたことを認めました。

アメリカがユネスコを正式に脱退するのは、来年の12月31日で、それ以降はオブザーバーとして関与を続けるとしていますが、トランプ政権は、ユネスコに抗議の意志を示し、同盟国イスラエル寄りの姿勢をより鮮明にしました。

イスラエル首相は脱退を歓迎

イスラエルのネタニヤフ首相は12日、声明を出し、「勇気ある道徳的な決断だ」と歓迎しました。さらに、ネタニヤフ首相は「ユネスコは歴史遺産を守らず、不道徳な劇場と化している」と批判し、イスラエルもユネスコを脱退するよう指示したことを明らかにしました。

一連の問題のきっかけは、パレスチナ暫定自治政府が、イスラエルとの和平交渉が行き詰まる中、国際社会に対して独立国家樹立の願いを訴えようとユネスコに正式な加盟を申請し、2011年に認められたことにさかのぼります。

当時、イスラエルとアメリカは、パレスチナのユネスコ加盟は、一方的な行動であり、和平交渉を阻害するものだと批判してきました。

その後、おととしにユネスコは、聖地エルサレムの管理をめぐり、アラブ諸国が提出したイスラエルに対する非難決議を採択したほか、ことし7月には、パレスチナの申請に基づき、イスラエルが占領下に置き、ユダヤ教の聖地もあるヘブロンの旧市街をパレスチナの世界遺産として登録しイスラエルは反発を強めていました。

ユネスコ事務局長が遺憾表明

ユネスコのボコバ事務局長は12日、パリにあるユネスコの本部で記者団の取材に応じました。

この中でボコバ事務局長は、「長年ユネスコはアメリカと強いパートナーシップを築き、テロとの戦い、若者の過激化やヘイトスピーチの防止など、多くの分野で協力してきた。それだけに脱退の表明は極めて遺憾だ」と述べ、強い遺憾の意を示しました。

また、「歴史を振り返ればアメリカはユネスコの設立時からのメンバーだ。教育や科学、文化やコミュニケーションを通して平和を築くというユネスコの理念は、アメリカの基本的な理念でもあるはずだ」と述べ、長年協力関係を築きながらユネスコを痛烈に批判して脱退する意向を示したアメリカに反論しました。

加盟国から批判と懸念

フランスのパリに本部を置くユネスコの加盟国からは、批判的な声が上がっています。このうち、カタールのザイナル大使は、NHKの取材に対し、「ユネスコへの貢献度が大きいアメリカの決断は驚きだ」としたうえで、「アメリカは、政府だけでなくNGOなどの民間部門もユネスコの活動に貢献しているので、民間部門の活動がこれまでどおり続けられるかどうか心配している」と述べて懸念を示しました。

また、フィンランドのプースティネン大使は「遺憾に思う。ユネスコは大国も小さな国も加盟して世界共通の課題に挑む多国間主義を掲げていて、アメリカが果たしてきた役割は非常に大きい」と述べ、アメリカが脱退の意向を表明したことを受けて、ユネスコの加盟国が足並みをそろえていけるかが課題になるという認識を示しました。

さらに、フランス外務省の報道官は12日、声明を発表し、「国際社会からユネスコへの支援が求められる中で、アメリカが脱退を表明したことを遺憾に思う」と述べ、フランス政府として、ユネスコの役割の重要性を改めて認識するよう、各国に働きかけていく考えを示しました。

米国とイスラエル

アメリカは1948年、イスラエルが建国された際、最初に国家として承認し、対立するアラブ諸国に囲まれたイスラエルを一貫して支援してきました。アメリカでは、「イスラエル・ロビー」と呼ばれるユダヤ系の団体が政財界に強い影響力を持ち、特別な関係の国として、イスラエルに多額の軍事援助を続けています。

しかし、前のオバマ政権が、イスラエルが安全保障上、最大の脅威と捉えるイランと距離を縮め、ヨーロッパなどの関係国とともに核合意の協議を推進したことから、イスラエルはこれを公然と批判し、関係が冷却化しました。

一方、トランプ大統領は、去年の大統領選挙期間中、エルサレムにアメリカ大使館を移転すると発言するなど、イスラエル寄りの姿勢を鮮明に打ち出しました。

その後も、パレスチナに対して強硬な姿勢の人物をイスラエル大使に指名したほか、イスラエルと将来的なパレスチナ国家が共存する「2国家共存」には必ずしもこだわらない考えを示しました。

さらに、トランプ大統領の娘婿のクシュナー上級顧問は敬けんなユダヤ教徒で、娘のイバンカさんも結婚を機にユダヤ教に改宗したことで知られています。

トランプ大統領は、イランの核合意について近く「認めない」とする判断を示すと伝えられていて、こうした背景にもイスラエルへの配慮があると見られています。

日本のユネスコ政策には影響与えず

日本政府は、アメリカの脱退表明について、コメントすることではなく、日本のユネスコ政策には影響を与えないとしています。

また、外務省幹部は、アメリカが、ユネスコの分担金を滞納し、過去には脱退した経緯があることなどから、今すぐユネスコの運営に影響が及ぶことは考えにくいという見方を示しています。

一方、日本政府は、ユネスコの「記憶遺産」に「南京事件」の資料が登録されたことなどを理由に、政治利用されるのは問題だとして、去年、ユネスコに対する分担金の拠出を一時保留したのに続き、ことしも現時点で、日本円にしておよそ35億円の分担金を拠出していません。

政府は今後、分担金の拠出を判断する上で、ユネスコの運営面での中立性や効率性などが確保されるかどうかを見極めたいとしています。。

野上官房副長官は記者会見で、「アメリカは、オブザーバーとしてユネスコとの関係を存続させていくとしており、ユネスコにおけるアメリカ側との協力を継続していきたい。日本の対ユネスコ政策に影響を及ぼすことはない」と述べました。

そのうえで、野上官房副長官は「日本としては、ユネスコのあらゆる事業が加盟国間の友好と相互理解の促進という、ユネスコ設立の本来の趣旨と目的を推進するものとなるよう取り組んできており、引き続き、取り組みが推進されるよう全力を尽くしていきたい」と述べました。

また、野上官房副長官は、日本のユネスコへの分担金の拠出について、「昨年度分を去年12月に支出済みだが、本年度分の分担金の支払いのタイミングなどは、あらゆる観点から総合的に判断していきたい」と述べました。