ヘッドホンを外せない子どもたち

ヘッドホンを外せない子どもたち
電車の中にヘッドホンをつけている幼い男の子と母親がいました。周りの人が「ヘッドホンで音楽聴かせるなんて!会話しなさい」と母親に言いました。しかし男の子は音楽を聴いていませんでした。逆に音が聞こえると耐えられなくなることがあるためできるだけ音を断っていたのです。男の子はまだ知る人の少ない、だから誤解されることの多い「聴覚過敏」でした。(ネットワーク報道部記者 大窪奈緒子)
インターネットのツイッター。あるつぶやきが話題になりました。幼い男の子の母親からの投稿。

「電車で“小さい子にヘッドホンで音楽聴かせて!会話しなさい”と勘違いされた」
「騒音や嫌な音を和らげるだけ。音を完璧に遮断しているわけではないのに」
「息子は“聴覚過敏”。音の大小関係なく生理的に無理な音がある」
「理解広まって」

ツイッターによると男の子は自閉症スペクトラム障害。発達障害の一つです。他人の感情を理解したりコミュニケーションを取ったりするのが苦手という特徴があります。こうした自閉症の人に音に敏感な「聴覚過敏」の症状が出ることが多いのです。

「うちの子も聴覚過敏。特にダメなのが大勢の人が集まるガヤガヤした所の音」
「うちも自閉症で、聞くとパニックになる音がいくつかある」

投稿されてすぐに当事者たちの声が次々と寄せられました。

うちの子もそう…

インターネットのツイッター。あるつぶやきが話題になりました。幼い男の子の母親からの投稿。

「電車で“小さい子にヘッドホンで音楽聴かせて!会話しなさい”と勘違いされた」
「騒音や嫌な音を和らげるだけ。音を完璧に遮断しているわけではないのに」
「息子は“聴覚過敏”。音の大小関係なく生理的に無理な音がある」
「理解広まって」

ツイッターによると男の子は自閉症スペクトラム障害。発達障害の一つです。他人の感情を理解したりコミュニケーションを取ったりするのが苦手という特徴があります。こうした自閉症の人に音に敏感な「聴覚過敏」の症状が出ることが多いのです。

「うちの子も聴覚過敏。特にダメなのが大勢の人が集まるガヤガヤした所の音」
「うちも自閉症で、聞くとパニックになる音がいくつかある」

投稿されてすぐに当事者たちの声が次々と寄せられました。

ヘッドホンではなかった

この男の子がつけていたもの、実はヘッドホンではありませんでした。

同じような形をした“イヤーマフ”と呼ばれる商品。
両耳を覆うカップに音を吸収する素材が入っていて、密閉して聴覚を保護します。ジェット機の音や、カーレースの際の音などを和らげようと、現場で働く人たちの耳を守るためなどに作られた商品でした。

イヤーマフを国内外で販売している「スリーエム」の担当者に話を聞くと、ワイヤレスヘッドホンの普及で見分けがつきにくくなっているそうです。そして最近、本やインターネットで聴覚過敏の対策グッズとして紹介されることが増え、利用の幅が広がっているということでした。

痛みや吐き気も

聴覚過敏の人は音に敏感過ぎるため、ふだんの生活の中で音に苦しみます。

「一般には苦にならない音が耐えられないほど大きく感じてしまう」
「意識しないと聞き取れないような雑音や話し声なども聞き取ってしまう」
「そうした症状によってひどい時には痛みや吐き気をもよおす」

聴覚障害学が専門で聴覚過敏に詳しい横浜国立大学の中川辰雄教授に聞くと、明確な治療法は確立されてなく、予測される患者数もわからないそうです。
ただ調査をすると、耳の構造自体には問題がないものの、やはり自閉症など発達障害の子どもに症状を訴えるケースが目立ちました。

調査したのは7年前。ある特別支援学校でおよそ80の家庭を調べたところ、小学部の子どものおよそ半数に聴覚過敏の症状がありました。

ところが、中学部になると20%弱、高等部ではさらに下がって17%ほど。学年があがるにつれ、症状が消えていく傾向がうかがえました。

また、苦手な音はトイレのハンドドライヤー・掃除機・赤ちゃんの泣き声・救急車のサイレン・館内放送などさまざまでした。
中川教授は「聴覚過敏は、子どもの成長に伴って音を聞くという経験を繰り返し、どういう時に苦手な音が鳴るのかなどを一つ一つ学習することで症状がなくなったりするのではないか。安易にイヤーマフを使い学習の機会が奪われてしまわないよう大人が注意することが必要だ」と指摘しています。

その一方で「聴覚過敏が治らない子どもや、悪化してしまう子どもも一定数いる。イヤーマフをつけることで嫌な音が緩和され安心感が得られ、外に出られるようになるというメリットもある。状況に合わせて使ってほしい」とも話していました。

音に支配されて

聴覚過敏のつらさを教えてくれた人がいました。自閉症で聴覚過敏のある、16歳の大貫智哉くんです。
イヤーマフと録音機能のついたデジタルオーディオを常に持ち歩いています。智哉くんは言葉を発したり、気持ちを伝えたりすることが得意ではなく、母親の敦子さんが、智哉くんが幼い頃からの経験を話してくれました。

智哉くんは幼い頃から音に敏感で、歩き始めるようになっても音を怖がって外を歩きたがらなかったそうです。そして大きな音が怖いのに加え、たくさんの人がいる場所では、話し声や空調の音、物がぶつかる音など一般には気にならない音も耳が拾ってしまい、音の波が体に押し寄せてくるような圧迫感で、いつも耳を押さえていたそうです。

幼い子どもが両耳を押さえる姿を目にするのは耐えがたく、敦子さんは音に生活が支配されているように感じていました。「とにかく大変そうで。どうしたら少しでも楽に生活させてあげられるのか対処方法を見つけようと必死だった」といいます。

ところが智哉君が5歳の時、電車のアナウンスや発車メロディーなどお気に入りの音をデジタルオーディオに録りためてプレゼントすると、その日からデジタルオーディオの音を聴きながらであれば外を散歩できるようになったといいます。

また、イヤーマフが音を和らげるのに有効なこともインターネットで知り、今はスーパーやレストランなど騒がしい場所に入る前には、あらかじめイヤーマフをつけて入店し、徐々に耳を音に慣らしてからイヤーマフをとるようにしているということでした。

「勘違いはしょっちゅう」「お母さんに申し訳ない」

実際、イヤーマフをしていると、音楽を聴いていると“勘違いされることはしょっちゅう”だそうです。敦子さんは次のように話してくれました。
「小さいうちから音楽を聴かせると耳が悪くなるわよ」と注意されたことも多々ありました。心の中では「そうじゃないんだけどな」と思いながらも、まぁ、勘違いされても当然か、と自分を納得させていました。

ただ、バスなどで赤ちゃんが泣いている際、「お母さんを嫌な気分にさせたら申し訳ない」と感じながらも、体が硬直してきている智哉君にイヤーマフをそっとかぶせる時は、なんとも言えない悲しい気持ちになる。

少しでも、少しでも、少しでも

私もバスの中などで、大きなヘッドホンを(今思えばイヤーマフ)つけた子どもを見たことがあり、なんでつけているのかな?ぐらいにしか思っていませんでした。

冒頭の投稿を知るまでは、聴覚過敏も知りませんでした。その症状のつらさも、周囲に誤解されるつらさも、なんとも言えない悲しい気持ちになることも知りませんでした。まだイヤーマフがない時代、聴覚過敏の方たちはどのように過ごしていたのかとも思いました。

つらさが少しでも和らぐために、誤解が少しでも解けるために、悲しい気持ちが少しでもなくなるために、聴覚過敏と闘っている人がいることを少しでも多くの人に伝えていきたい、この記事がその一助に、つらさを和らげる力になればと思います。