キレる高齢者増えた?その訳は‥‥

キレる高齢者増えた?その訳は‥‥
「キレる高齢者」。 ここ最近見たり聞いたりすることが増えています。タバコのポイ捨てを注意されて小学生の首を絞める、荷物が当たったという理由で高校生の顔を殴るなど高齢者が逮捕される事件も相次いでいます。キレる高齢者は増えているのでしょうか?(ネットワーク報道部 管野彰彦記者)
SNSでしばしば見るつぶやき。「病院で会計が遅いといってキレていた」「コンビニのレジで年齢確認ボタンを押すのにキレて商品投げつけて帰って行った」「停留所でもないのに無理やりバスを止めて乗ってきて遅いといっていた」「店で『品切れです』と謝ったのにどなられた」などなど。どれも人生のベテラン、酸いも甘いもかみ分けた“いい大人”が突然怒りだしたという投稿です。

投稿相次ぐ“目撃談”

SNSでしばしば見るつぶやき。「病院で会計が遅いといってキレていた」「コンビニのレジで年齢確認ボタンを押すのにキレて商品投げつけて帰って行った」「停留所でもないのに無理やりバスを止めて乗ってきて遅いといっていた」「店で『品切れです』と謝ったのにどなられた」などなど。どれも人生のベテラン、酸いも甘いもかみ分けた“いい大人”が突然怒りだしたという投稿です。

カッとなるのは年のせい?

カッとなって怒りだし感情を理性でコントロールできなくなる状態、高齢者に多いのか?

それには医学的な理由があります。都内の精神科に通っている83歳の男性患者は1年ほど前から気に入らないことがあると妻に暴言を浴びせたり暴力を振るったりするようになりました。きちょうめんな性格ですが短気ではなかったといいます。診察を受けた結果、脳機能の低下と診断されました。
東京・中野区にある「あしかりクリニック」の院長で精神科の芦刈伊世子医師によると、人の理性は大脳の前頭葉という部分で制御されていますが、この機能が低下するとこうした症状が出ることがあるといいます。
芦刈医師は「前頭葉が萎縮するのは認知症の1つで、記憶力などに問題はないが脳機能が低下することで感情の抑えが効かなくなって我慢ができない状態になる。早い人では60歳ぐらいから症状が出始める」と指摘します。

すべての人に症状が出る訳ではないものの、診察に訪れる高齢者で同様の症状が確認される人は少なくないということです。

自暴自棄で犯罪も増加?

理性による制御が利かなくなり犯罪にまでエスカレートするケースもあります。

法務省の犯罪白書によると、おととし刑法犯で検挙された65歳以上の高齢者は4万7632人。平成元年に比べて7倍以上に増えています。高齢人口そのものが増えているため単純な比較はできませんが、65歳以上の人口10万人あたりの「割合」で見ても、3倍以上に増加していることがわかりました。

特にここ最近、ごく普通の生活を送ってきた人が自暴自棄になって周囲を巻き込んだと見られる事件が相次いでいます。
▽71歳の男が東海道新幹線の車内でガソリンをかぶって火をつけて自殺し、乗客の女性が巻き添えで死亡(おととし6月)
▽68歳の男が東京・杉並区で夏祭りの会場に火炎瓶を投げつけて16人がけが。男は直後に自殺(去年8月)
▽72歳の元自衛官が宇都宮市の公園で死亡。手製の爆発物を使用した自殺と見られ、本人のものと見られるブログなどに「自暴自棄に陥っている」の書き込み(去年10月)
宇都宮で起きた爆発事件(去年10月)

ヒント求めて刑務所へ

感情をコントロールできなくなるのは加齢による脳機能の変化や性格の問題なのか。

ほかの理由を探るため、キレて犯罪に関わってしまったという受刑者に話しを聞きに行きました。訪ねたのは初犯の受刑者が多く収容されている西日本のある刑務所。70代の受刑者から話を聞くことができました。
この受刑者は工業高校を卒業したあと26歳の時、大阪で就職しました。当時は残業があると泊まり込むなどプライベートを顧みず仕事に打ち込んだといいます。客から感謝されることに喜びを感じ、その後、職はかわりましたが仕事には常にやりがいを感じていたと話します。
ところが50代半ばの時、リストラに近い形で退職を余儀なくされます。ほかの職を探しましたが60近い年齢が大きな妨げとなりました。貯金も尽き、新たな仕事も見つからず「やけくそになった」。
そんなある日、近所のコンビニエンスストアに押し入り、刃物で店員を脅して現金約20万円を奪いました。その後逮捕、起訴されて懲役8年の判決を受けて服役しました。
当時の心境について「捕まるのは分かっていた。なぜあんなことをしたのかわからない」と話していました。

“仕事一筋”が身を滅ぼす

このほか放火や殺人未遂の罪などで服役している受刑者や刑期を終えて刑務所を出た人など4人から話を聞くと、ある2つの共通の要因が見つかりました。

(共通点1・“仕事人間”
一つ目は全員が仕事を生きがいとする「仕事人間」だったことです。4人とも「仕事は楽しかった。生きがいだった」と口々に話しました。「団塊の世代」など今の70歳前後の人たちは「モーレツ社員」とも呼ばれて日本の高度経済成長を支え続けてきました。それだけに仕事を失った時の喪失感が深く大きかったように感じました。

(共通点2・自信と誇り
二つ目は自分の生き方に強い自信や誇りを持っていることです。過去の成功体験にこだわるあまり、年を重ねてからの挫折を受け入れられず、苦境に立たされた時も周囲の目も気にして誰にも相談できなかったと話していました。

受刑者の1人が「仕事を失ったことで『これをやってはいけない』という自分の中のハードルが下がってしまった。『仕事を続けていれば』『家族がいてくれたら』という思いはある」と振り返っていたのが印象的でした。

社会や家族との絆を絶やさない

こうした、いわば「社会的な孤立」について、犯罪学が専門の龍谷大学法学部の浜井浩一教授は高齢者がキレることと関係していると考えています。
浜井教授は「70歳前後の世代は仕事が自己実現の場であった人が多く、会社を退職すると社会とのつながりが希薄になっていく。日本で犯罪を抑止しているのはモラルより同僚や上司、それに部下といった周りの目を意識した相互チェックであり、社会とのつながりが弱くなれば秩序の維持が難しくなって、キレたり事件を起こしたりしてしまうことにつながる」と分析しています。

今、日本の平均寿命は男女とも80歳を超えて過去最高となっています。定年で勤め先を辞めたあと20年、30年と暮らすのが当たり前となりつつあります。そうした中、加齢による脳機能の低下を完全に防ぐのは困難です。また“仕事一筋”で生きてきた男性が子どもが独立し、夫婦だけとなった家庭で孤立してしまうといった話もよく聞きます。誰しも年をとることは避けられません。「加齢による変化」があることを自覚したうえで、日常生活の中で何か不快なことがあっても一拍置き、相手の身になって考える余裕が必要なのかも知れません。