敵はヒアリ 頑張れ日本のアリ?

敵はヒアリ 頑張れ日本のアリ?
強い毒を持つ南米原産の「ヒアリ」が国内で相次いで見つかり、連日、メディアで取り上げられています。そうした中、ネット上では「ヒアリの天敵は日本のアリだけだ」といった書き込みが目立つようになっています。中には「頑張れ日本のアリ」などと、日本のアリに期待するような声も。でも、天敵って、カエルにとってのヘビ?。本当に日本のアリは、そんなに強いの?(ネットワーク報道部 管野彰彦記者)
ヒアリはことし5月に兵庫県で見つかって以降、愛知や東京など各地で相次いで発見されています。刺されると、アナフィラキシーショックを起こして命を落とすこともあるうえ、繁殖力が強く、定着してしまうと根絶するのが難しいとされていて、各地の港やその周辺などで大規模な駆除が進められています。

各地のドラッグストアでは、アリに効く殺虫剤のコーナーが設置され、都内のホームセンターでは「通常の5倍の売り上げになっている」と言うところもあり、一般生活の中でも警戒感が高まっています。

「ヒアリ」ショック 波紋広がる

ヒアリはことし5月に兵庫県で見つかって以降、愛知や東京など各地で相次いで発見されています。刺されると、アナフィラキシーショックを起こして命を落とすこともあるうえ、繁殖力が強く、定着してしまうと根絶するのが難しいとされていて、各地の港やその周辺などで大規模な駆除が進められています。

各地のドラッグストアでは、アリに効く殺虫剤のコーナーが設置され、都内のホームセンターでは「通常の5倍の売り上げになっている」と言うところもあり、一般生活の中でも警戒感が高まっています。

ヒアリの天敵は日本のアリ?

こうしたなか、ネット上では「ヒアリの天敵は日本のアリ」、「ヒアリの敵になれる存在は日本にいるアリだけ。アリというだけで駆除してはいけない」といった書き込みが多く投稿されるようになっています。

中には、「頑張れ日本のアリ」などと、まるでヒアリ“来襲”への徹底抗戦を日本の在来アリに期待するような声まであります。

一方、海外では外来種として入ってきたヒアリに在来アリが駆逐されてしまったという報告もあり、「本当に日本のアリが天敵なの?」「どっちが正しいんだ?」という疑問も書き込まれています。

一定の“防衛力”アリ

日本のアリはヒアリの天敵なのか。
ヒアリの生態に詳しい沖縄科学技術大学院大学の吉村正志研究員に聞いたところ、天敵とはいえないまでも「敵にはなる」と言います。
ポイントはヒアリの侵入がどの程度まで進んでいるかでわかれます。

ヒアリが繁殖して一定の地域に定着してしまっているような場合、ほかのアリに比べてヒアリの増殖力は格段に強いことから、在来アリのコミュニティを追いやってしまうこともあります。

一方、まだ侵入してまもない時期であれば、在来アリの存在が一定の防衛力になりえるといいます。

ヒアリもほかのアリと同じように、女王アリが巣から飛び立って、新たな巣を作り、卵を産むことで数を増やしていきます。

その際、女王アリが地上に降り立った場所に、在来アリがいるのといないのとで、大きな差が出るというのです。

多数のヒアリに対しては、太刀打ちできないとしても、1匹の女王アリであれば、在来のアリの集団が倒してくれる可能性があります。

女王アリがいなければ、繁殖することはできず、定着も進まないという訳です。
「日本産アリ類画像データベース2008CDーROM」より
吉村研究員によると、日本には300種近いアリが生息していますが、「クロヤマアリ」や「クロオオアリ」といった東京の都市部などでよく見かけるアリも、初期の段階でヒアリの増殖を防ぐ効果は期待できるといいます。

そして、ヒアリの侵入が、港やコンテナが運ばれた周辺にかぎられていると考えられる今の段階では、ヒアリが確認されていない、離れた公園や自宅の庭などでは、必要以上に警戒してアリというだけで駆除するべきではないと指摘しています。

“バイオレジスタンス”

在来のアリが、ヒアリの繁殖抑止に一定の効果があることを裏付けるデータもあります。

「兵庫県立人と自然の博物館」の橋本佳明主任研究員によると、アメリカの研究グループは、在来のアリが生息する「そのままの環境」と「個体数を減らした環境」の中に、それぞれヒアリの女王アリを放しました。

そして、その後、どれだけヒアリが定着したかを調べたところ、「そのままの環境」では、0.5%以下と、抑止に大きな効果がありました。

そして、個体数を減らした環境では繁殖に成功した割合が19%まで上昇したということです。
橋本さんは、あくまでアメリカでのケースであり、日本で同じ結果になるかはわからないとしたうえで、「初期の段階であれば、在来のアリが“バイオレジスタンス”として戦ってくれるので、むやみにアリを殺さない方がいい」と話していました。

ヒアリ最強説 天敵はいないのか

ちなみに、インターネットでは「ゾンビバエ」が天敵だという投稿も多く見られます。これは、南米などに生息するノミバエの一種を指す俗称で、ヒアリの体内に卵を生み付けて寄生して、体液を吸って成長し、最終的に頭部を切り落とすという、ヒアリにとってはおそろしい相手です。
しかし、外来生物の対策を研究している「ふじのくに地球環境史ミュージアム」の岸本年郎准教授によると、アメリカで、ヒアリの駆除のために導入に向けた実験が行われたものの、成果は上がっていないということです。

このほかにもヒアリに寄生するアリや微生物は知られていますが、天敵と言える存在は見つかっていないといいます。

ヒアリはなぜ強い? 数千匹の女王アリ

なぜ、これほどヒアリは強いのか。

アリの生態に詳しい金沢大学自然システム学類の大河原恭祐准教授は、攻撃力の高さもさることながら、最大の武器は増殖力の強さだといいます。

日本でよくみかけるアリの多くは、数百から1000匹程度が1つの巣を作りますが、ヒアリは多いもので100万匹にもなります。
ヒアリの「女王アリ」(兵庫県立人と自然の博物館より)
そして、女王アリも、日本のアリは1つの巣にせいぜい数十匹なのに対し、ヒアリは数百匹から数千匹にもなります。

次々と数を増やすことができ、餌の奪い合いなどで有利に立つことができるのです。
ほかに強いアリといえば、餌の80%が「ほかのアリ」とも言われるこちらも南米原産の「グンタイアリ」を思い浮かべる人もいるかもしれません。その強さの秘けつは数万匹単位で行動する性質にあります。このグンタイアリに唯一対抗しているとも言われる「ハキリアリ」も、同じように大群で生活する性質があります。しかし、これらのアリがヒアリと遭遇した場合にどうなるかは、データがなく、残念ながらわからないということです。

頑張れニッポンのアリ!?

台湾で撮影されたヒアリ
今回取材した専門家が一同に口にしたのは、「殺虫剤を使って過剰に在来のアリまで駆除してしまうこと」への警鐘でした。殺虫剤では、アリ以外の生物も殺してしまいます。その結果、アリ以外の競争相手もいなくなってヒアリが生息範囲を広げる余地を生みだしてしまいます。生態系への影響も懸念されます。

強い毒を持つヒアリですが、過剰におそれないこと、正確な知識を得たうえで「正しく恐れること」が大切なのではないかと今回の取材を通じて感じました。

ヒアリの日本への定着抑止、そして生態系の保全という観点から考えても、「ニッポンのアリ」に頑張ってもらうことは、あながち間違いではないと思います。

そして、近くにヒアリかも?というアリを見つけたら、まずは、地元の自治体や環境事務所に相談することが大切です。