夏休み 子どものツアーが次々中止に… そのわけは?

夏休み 子どものツアーが次々中止に… そのわけは?
自治体が主催する夏休みの子ども向けのツアーやキャンプなどが、いま、各地で次々と中止に追い込まれています。子どもたちに、自然のなかで、ふだんはできない体験をしてもらい、夏の思い出を作ってもらおうというツアー。中止の背景に、どんな事情があるのか取材しました。
6月30日、川崎市教育委員会が急きょ、発表を行いました。市内の小中学生を対象にした夏休み中のキャンプを、開催直前になって中止するというのです。

相次ぐツアー中止

6月30日、川崎市教育委員会が急きょ、発表を行いました。市内の小中学生を対象にした夏休み中のキャンプを、開催直前になって中止するというのです。
市の教育委員会などでつくる実行委員会が、北海道や岩手県など全国5か所のコースで募集していたキャンプ。市教育委員会は、不特定多数の子どもを対象に参加者を募って費用を集めることが、旅行業法に違反するおそれがあると説明しました。

NHKのまとめでは、同じような理由で、この夏、自治体が主催する子ども向けのツアーやキャンプが中止されたり、旅行業者に委託せざるを得なくなったりと影響が出たケースが、少なくとも11件相次いでいることがわかりました。
このうち福岡県筑後市では、教育委員会が毎年3回、小中学生を対象にキャンプを行ってきましたが、急きょ中止しました。石川県輪島市では、市と地元の観光協会などが、毎年、夏休みに県内外の小中学生を受け入れ、海水浴や輪島塗づくりを体験してもらう催しを企画してきました。外部からの指摘を受けて募集をいったん中止し、旅行業者に委託して、実施することになりました。滋賀県守山市も20年余り前から行ってきた小学生のサマーキャンプを新たに旅行業者に委託することになりました。
このほかにも、神奈川県平塚市、神奈川県二宮町、神奈川県開成町、長野県飯田市、大阪府泉大津市、大阪府熊取町、兵庫県西宮市で影響が出ました。

自治体の多くは、旅行業法についての認識が不足していたことが原因だとしていて、長年にわたり、同じような方法でツアーを実施していたケースも目立っています。

ツアー中止で落胆する家族

楽しみにしていた夏休みの行事が突然中止されて、子どもや保護者はどんな思いでいるのか、神奈川県二宮町の家族を取材しました。

小学6年生の鈴木あやめさんは、町の教育委員会が募集した野外研修に、参加を申し込んでいました。7月22日から1泊2日の日程で、神奈川県山北町でキャンプや川遊びをする予定でした。
あやめさんが参加した事前のオリエンテーションでは、ほかの子どもたちと班分けや役割分担などを決めて、班の目標は「みんな仲よく笑顔で元気に過ごそう」というものにしました。さらに、持ち物や服装などの準備を整え、友だちとおそろいの熊よけの鈴や、川遊び用の防水の靴を新たに購入したといいます。

しかし、野外研修は中止になってしまいました。あやめさんは「ほかの小学校の人とも仲よくなれそうだったのに、中止になってショックでした」と話していました。あやめさんには2人の幼い妹がいて、家族そろって旅行に出かける機会がほとんどないということで、母親の鈴木若葉さんは、あやめさんにとって貴重な機会になると期待していました。

鈴木さんは「娘はすごく楽しみにしていました。中止になって非常に残念ですし、また再開してほしいです」と話していました。

中止した町の事情は

では、ツアーを中止した町の側には、いったいどんな事情があったのでしょうか。

神奈川県二宮町では、野外研修など、3つのイベントが中止に追い込まれました。このうち野外研修は、昭和50年から40年以上続けられてきました。子どもどうしの交流を深め、自主性や協調性を養うことを主な目的としています。また、家庭の事情などで旅行に出かける機会がない子どもたちに、夏休みの思い出を作ってほしいという考えもあったということです。参加者から集めた費用は1人当たり3000円で、より多くの子どもに参加してほしいと、町も一部費用を負担して安く抑えたということです。
実は、町の教育委員会は、ことし6月、旅行業法に違反するおそれのある行事を行わないよう神奈川県から通達を受けていました。ところが、今回の野外研修が該当することには気付かなかったとしています。

二宮町教育委員会生涯学習課の椎野文彦課長は、取材に対し「お子さんたちが楽しみにしていたことが中止になり申し訳ない。法律をよく調べず、勉強不足だったと思う」と謝罪しました。一方で、「旅行業法に違反するおそれがあるかどうか、市町村では判断しにくい部分もあるので、国や県から具体的に通知してもらえればありがたかった」とも話しています。

そもそも何が旅行業法に違反?

昭和27年に施行された旅行業法では、不特定多数の人を対象に宿泊や乗り物による移動を伴う旅行を企画・実施する場合は、利用者の旅行中の安全を確保することなどを理由に実施者に登録を義務づけています。旅行の実施者は、海外旅行は国に、国内旅行は都道府県に登録することになっていて、国家資格の「旅行業務取扱管理者」を配置することや、最低100万円の営業保証金を法務局に預けることが義務づけられます。違反した場合は100万円以下の罰金となります。
ただし、登録が必要なのは不特定多数の人を対象に旅行を実施する場合で、例えば学校の修学旅行や町内会の慰安旅行、職場の研修旅行など顔見知りどうしが対象となる場合は必要ありません。

自治体が、旅行業の登録がないままツアーやキャンプを実施することは法律に違反するおそれがあるのです。

被災地へのボランティアツアーも問題に

「旅行業法に違反するおそれ」を理由にツアーが中止されるケースは、東日本大震災や熊本地震の被災地へのボランティアのツアーでも相次いでいました。

このため、観光庁は去年5月、都道府県を通じて旅行業の登録なしにツアーを行わないよう求める通知を出し、中止に追い込まれるツアーが相次ぎました。

一部のツアーは、旅行業者に委託するなどして続けられましたが、結果的に参加者の費用負担が増えたケースも目立ち、参加者や主催者から困惑の声が上がっていました。観光庁は、今後、被災地へのボランティアツアーに限り旅行業の登録がなくとも実施を認める方向で検討を進めています。

観光庁の対応は

夏休みの直前になって旅行の中止が相次いでいることについて、観光庁は、自治体が旅行業者に依頼せず、みずからツアーを実施することは認識しておらず残念だとしています。

観光庁は、法律の規定が自治体に十分に認識されていなかったとして、近く、全国の自治体に通知を出し、法律を順守するよう改めて周知を図る方針です。

観光庁観光産業課の黒須卓参事官は「自治体が法律の趣旨を認知していないとは思ってもいなかった。旅行は貴重な体験だが安全があってのものなので、事故が起きないよう国家資格の管理者を置くなど自治体としても法律を守ってもらいたい」と話しています。
夏休みを豊かに過ごすためのツアーやキャンプが突然中止されて、子どもたちをがっかりさせるようなことは、避けなければなりません。自治体が法律を守るのは当然のことですが、今回の混乱からは、法律が十分に理解されていない実態も見えてきました。正しい運用のありかたをどう周知・徹底していくのか、今後、国側の対応も問われそうです。