福島第一原子力発電所の事故の賠償などのため国が東京電力に行っている上限9兆円の支援について、資金の回収を終えるまでに最長で30年かかるとする試算を会計検査院がまとめました。会計検査院は、東京電力や電力各社などが納める負担金などの水準によっては資金の回収が長期化し、国の財政負担が増えることになると指摘しています。
福島第一原発の事故を巡り、国は、上限としている9兆円の国債を発行していて、原子力損害賠償・廃炉等支援機構を通じて東京電力に資金が交付され、住民などへの賠償や除染にかかった費用の支払いなどに充てられることになっています。交付された資金は、東京電力と電力各社などから毎年納められる負担金や、支援機構が保有する東京電力の株式の売却益などによって回収されることになっていて、会計検査院は、今後の見通しを試算しました。
それによりますと、東京電力が特別負担金として昨年度分と同じ500億円を毎年納めることを想定した場合、資金の回収が終わるのは、株式の売却益の金額によって、最長で30年後の平成56年度、最短で21年後の平成47年度になるとしています。また、経常利益の半分を毎年納めることを想定した場合でも、資金の回収が終わるのは最短で18年後の平成44年度になるとしています。
試算では、国が支援に必要な資金を金融機関から借り入れるために負担する支払利息は、総額890億円余りから最大で1260億円余りに上り、追加の財政負担が必要になるとしています。会計検査院は、負担金や株式の売却益の水準によっては資金の回収が長期化し、支払利息など国の財政負担が増えることになると指摘しています。
【資金回収のカギになるのは?】
国が交付する9兆円の資金の回収を終えるまでにどのぐらいの期間がかかるのか。その鍵を握るのが、東京電力の株式の売却益と、東京電力と電力各社などが納める「負担金」の水準です。
会計検査院は、今回の試算で資金の回収に充てられる株式の売却益について、▽3兆5000億円、▽2兆5000億円、▽1兆5000億円の、3つのケースを想定しました。これを1株当たりの平均の売却価格にすると、それぞれ、▽1350円、▽1050円、▽750円となり、株式の価格が高くなるほど資金の回収が終わるまでの期間が短くなるとしています。会計検査院は、株式を高い価格で売却するためには財務状況のさらなる改善や内部留保の蓄積などが必要だが、その取り組みは容易ではないとして、国などに対し、資金の確実な回収と東京電力の企業価値の向上の双方に十分に配慮する必要があると指摘しています。
また、資金の回収には、電力会社などが毎年納める「負担金」が充てられ、昨年度分は、「特別負担金」として東京電力が500億円、「一般負担金」として東京電力を含む電力各社などが1630億円を納めました。このうち「一般負担金」は、コストとして電力料金の原価に算入できるもので、電力会社などの収支の状況などを踏まえて、原子力損害賠償・廃炉等支援機構が定めることになっています。今回の試算では、今後も電力会社などが昨年度分と同じ額の一般負担金を納めることを想定しています。
一方、会計検査院は、原発の停止に伴う燃料費の増大などの影響で電力会社の中には複数年にわたって経常収支が赤字になっているところがあるとして、今後も同じ程度の水準の一般負担金を維持できるか注視が必要だとしています。
【専門家「改めて負担の在り方検討を」】
東京電力の経営について詳しい立命館大学の大島堅一教授は、「事故処理の対策はまだ入り口で、これから除染で出た廃棄物の最終処分の費用も発生し、今の9兆円の支援ではすまない可能性がある。改めて費用負担や資金の回収の在り方を検討する必要が出てくると思う」と指摘しています。そのうえで大島教授は、「電力各社などが納める一般負担金は電気料金の原価に含まれていて、国民の負担は税金だけでなく電気料金にも及ぶ。費用がいくら発生し誰がどのように負担しているか国民にきちんと開示して、判断を仰ぐことが必要だ」と指摘しています。
【東電「コストさらに削減」】
東京電力は「現時点で柏崎刈羽原子力発電所の具体的な運転計画を示すことができる状況にないが、コスト削減のさらなる徹底などにより、事業計画で掲げた目標の達成に向け最大限努力して参りたい」とコメントしています。さらに、廃炉・汚染水対策について「指摘された留意事項を真摯(しんし)に受け止め、対応を検討していきます」とコメントしています。
原発事故賠償の9兆円 回収に最長30年
3月23日18時22分更新