“人を生かす5か条” 新浪剛史さんに聞く働き方

商社マンからコンビニチェーン社長、そして現在は飲料メーカー・サントリーホールディングスのトップと、さまざまな職場を経験してきた新浪剛史さん(62)。政府の経済財政諮問会議の議員として「骨太の方針」など国の経済政策にも関わっています。

春闘が本格的に始まり、賃金だけでなく働き方の議論が活発になるいま、企業や社会でさまざまな人材をどう生かしていくのか。「新浪流 人を生かす5か条」を神子田章博キャスターが聞きました。

①賃上げで「やる気」を

最初に聞いたのは「経営者として賃上げについてどう考えるか」です。

「企業としてやっていかなければいけないのは、働き盛りの人たち、20代後半、30代、40代の方々に厚く賃金を増やしていく。一方で年齢が高いからだめなのかということは全くなくて、しっかりとしたノウハウを使って実績を上げている方々はまず報いる。『業績=生産性』ですね」

「やはり賃金が上がるから『やろうぜ』『将来こんなことができるからいいね』と、(働く人のやる気は)賃金はすごくベースにはあると思う」

②働き方に「選択肢」

社員のモチベーションを高めていくためには賃上げが大事だとの指摘ですが、それとともに仕事にやりがいや充実感を感じてもらうことも必要だといいます。そのためには「働き方の選択肢を増やすことが大事」だと話しました。

「それぞれの人たちが生き生きと活躍する場ができるのか、それぞれが歯車にならないように(経営者として)どうしたらいいか、常に悩んでいる」

「長所を探して(活躍の場が)どこかないか、場合によっては『地方自治体でノウハウが生かせるなら生かせませんか』と、自分が生かせる場を探すことも(社内で)いま始めている。地域のいろんなところに、ひょっとしたら私たちの人材で活躍できる場があるのではないか」

新浪さんの会社では、実際に3人が本人の希望に基づいて会社に籍を残す形で出向する制度を利用しています。

清水亮次さん(58)は兵庫県南あわじ市へ、柴澤亮さん(60)は岐阜県海津市へ出向し、さまざまな事業での経験を生かして将来に向けた地域の発展戦略やプロモーションを担っています。

また下山宏治さん(53)は福島県南相馬市で、健康食品に携わった経験を生かして市民の健康づくりに関する仕事をしています。

③自分を見つめ直す「45歳」

新浪さん自身も43歳や55歳で転機を迎え、さまざまな職場を渡り歩きました。そうした経験から、働く人自身も「45歳」くらいをめどに自分を見つめ直してはどうかと唱えています。

「人生は100年の時代になった。折り返し地点に『自分の人生どうあるか』と考える意味で45歳はすごく重要な年」

「いま転職先はたくさんオプションが増えたと思う。いろんなスタートアップもあれば、場合によってはNPOやNGOもある。『私はこういうスキルがあるから、技術をもっとどこかで生かせないかしら』。人生“のんべんだらり”と生きているわけじゃない。必ず苦労もしながら生きている。その中にきっと何かあるだろう」

④「副業」の活用

ただ新しい道といっても、現実には家族も養わなければならないし会社を飛び出すことは難しいという人も多いかもしれません。そうした中で、新浪さんがどんどん活用したらよいというのが「副業」です。

「手始めは、私は副業だと思う。1時間でも2時間でも副業をやることによって(会社の)外で何が起こっているかが分かる。『私が持っているノウハウが生きるんだ』ということも分かる。それをならしめたのが、リモートで仕事ができるようになったこと」

コロナ禍でリモートワークが普及したことで、オンラインで短時間の副業がしやすい状況もあるので、この機会を生かせるのではないかといいます。

⑤デジタル時代こそ「人間力」

もっとも、時代の急激な変化についていくのは簡単ではないかもしれません。とりわけデジタルの世界に取り残されそうな不安を抱えている世代の人もいると思います。そうした人に新浪さんは次のようなメッセージを語っています。

「確かに若い人たちはデジタルに関してリテラシー(活用能力)は高いが、実は“心”というのはすごく重要だと私は思う。デジタルになればなるほど、人間としての心(が大事)」

「デジタルは非常に強いが人づきあいが下手といったところは、やはり先輩である方々は人づきあいも苦労されていまがあるから、ゼロかイチだけで社会は成り立っていないから、『話せば分かることを横にいるのにメールやってるのは何だよ』と注意して『コミュニケーションしなさいよ』とできる。50代の人たちのほうが得意だから、役割はある」

経営者に求められる「PASSION」

神子田キャスターは日頃から、社長には「3つのION」が求められると言っています。「VISION(長期展望)」「DECISION(意思決定)」「COMMUNICATION(社員に伝わる)」です。

新浪さんはこれに加えて「PASSION(情熱)」が求められると言います。日本を代表するビジネスリーダーとして、人を生かすためのアイデアを情熱をもって進めていくことを期待したいと思います。

【2022年1月21日放送】