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年収1300万円は“低所得”!?

アメリカ西海岸のサンフランシスコは家賃の高騰が深刻です。なにしろ年収1300万円の4人家族は「低所得者」とみなされて政府の住宅補助を申請できるのです。6月に発表された時は正直信じられませんでした。私のまわりのアメリカ人ですら驚いていました。そんな中、少しでも割安な住まいを提供しようと、若手の起業家たちが奮闘しています。日本人の経営者もビジネスを拡大中です。(ロサンゼルス支局長 飯田香織)

なぜ高い?

サンフランシスコのワンベッドルームのアパートの平均家賃は月3334ドル(約37万円)です。(米レント・ジャングル調べ)

よく「ニューヨークよりも高いの?」と聞かれますが、ニューヨークは2956ドル(約33万円)。サンフランシスコの家賃は全米でダントツの高さです。

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市内の典型的な物件を見せてもらいました。4階建ての4階にある70平方メートルのワンベッドルーム。日当たりがよく、家賃はほぼ平均の3400ドルです。

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オーナー ビクトリア・ガレアさん

「IT企業だけでなく、最近はファッションの関係者もサンフランシスコに流入し、家賃が高くても借りていく。それだけ高いお給料を受け取っているのよ」

アパートを借りるのは、ニューヨークから引っ越してくる男性。大手のインテリア雑貨チェーンのデザイナーです。

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「サンフランシスコはニューヨークより物件が少なく、家賃が高い」

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サンフランシスコや近隣のシリコンバレーは「ベイエリア」と呼ばれています。

ベイエリアの一帯にはアップル、グーグル、フェイスブックなど多くのIT企業が拠点を構えています。

7月に発表された大手IT企業の決算はおおむね好調で、アップルがアメリカ企業として初めて時価総額1兆ドル(約111兆円)の天井を突き破り、大きな話題になりました。

こうした好調なIT企業のおかげでベイエリアの景気は潤っています。

ただIT関係者によって家賃もつり上げられ、住みにくい街になっていると指摘されています。

住宅スタートアップ次々

この家賃高騰を逆にビジネスチャンスとみて、ベイエリアではいま「住宅スタートアップ」と呼ばれる新しい企業が次々と誕生し、”新たな住み方”を提供しています。

特に多いのが学生寮のような共同生活。Co-livingと呼ばれています。

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スタートアップの1つ「ハブハウス」は大きな一軒家を借り切って部屋を分割して貸し出しています。

取材したのはサンフランシスコに隣接するサンマテオにある一軒家。20代から50代までの男女8人が暮らしていました。

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ソフトウェアエンジニアのニキル・ジャダブさん(28)は4月からこの家で暮らし、元はダイニングルームという一室をベッドルームとして使っています。

直前まで家賃2400ドルのアパートに住んでいましたが、家賃は半額に。

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インド出身のジャダブさんはヨガ好きでヨガマットで寝ています。
お香をよくたくとのことで、部屋にはいい香りが漂い快適そうです。

バス・トイレはほかの男性2人と共有です。

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ニキル・ジャダブさん

「そんなに不便じゃないよ。困るのはみんなが同時にトイレを使いたいときくらいかな」

ちなみにジャダブさんの年収は1100万円以上。もっと高いところに住むこともできますが、わりに合わないといいます。

「ハブハウス」のシュリティ・マーチャントCEO(24)は、ルームメート探しに苦労したみずからの経験をきっかけに2年前に会社を立ち上げました。

気の合いそうな人たちをルームメートとしてマッチング。掃除のプロを月に2回よび、トラブルの解決にもあたるというサービスの内容でベイエリアで約30軒のハウスを運営。

ロサンゼルスなどにもビジネスを拡大中です。

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シュリティ・マーチャントCEO

「共同生活は確実に選択肢の1つになっている。コストを抑え、コミュニティや住人どうしのふれあいなど利点もある」

ホテルを自宅に

ただ私のように「共同生活はちょっと無理」という人もいます。そんな人のために、なんと日本人の経営者が奮闘しているのです。

内藤聡さん(28)が立ち上げた「エニープレイス」というスタートアップは、ホテルの一室を、1か月から貸し出すビジネスを展開しています。

「自宅をホテル」のようにして貸し出す民泊とは逆で、「ホテルを自宅」として提供します。

民泊の普及で、知名度の低い中小ホテルの部屋が余っていることに着目した新たなビジネスです。

身元確認をしたうえでホテルに代わって賃料を集金し10%を手数料として受け取る仕組みです。

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ジョン・ジョイスさん

「エニープレイス」を利用して、サンフランシスコ中心部のホテルで暮らすジョン・ジョイスさん(25)。

小さな部屋にはベッドがあるだけ。机がないため、備え付けのアイロン台にパソコンを置いて使っていました。

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バス・トイレもフロアにある共有のものを使います。洗濯は日ごろ通っているトレーニングジムの洗濯機を使っているそうです。

ジョイスさんはマーケティング会社に勤務し、以前は家賃3900ドルのアパートに住んでいましたがあまりに高いため、いまは月1650ドルでホテル暮らしをしています。

不便はありますが部屋には週に2回、ルームクリーニングが入るほか、朝食もついています。

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「普通のアパート生活と比べると何かを失うかもしれないが、家計的にはとても助かる」

まだ世の中にないもの

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CEOの内藤さんがサンフランシスコにやってきたのは2014年。

ライドシェアのウーバーや民泊のエアビーアンドビーのような「まだ世の中にないもの」を提供するビジネスを作りたいと思って、コネクションもお金もなく、英語もろくにできない状態で渡米したというので驚きです。

3年前に起業しいろんな事業を手がけましたが、何をやっているか自信を持って人に話せず「形容しがたい苦しさがあった」と言います。

「アメリカで賃貸するのはつらい」というみずからの経験をもとに今のビジネスを始め、ようやく軌道に乗りはじめました。

年間契約で賃貸して、家具をそろえ、電気・水道などの契約をするのは、かなり面倒です。

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エニープレイス 内藤聡CEO

「ホテルに住めば家具がついてくるし、光熱費も込み。月ぎめで契約すれば、柔軟なハウジングが提供できると思った」

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サンフランシスコ市内にオフィスを構え、社員は合わせて7人。ウーバーの初期投資家でもある著名な投資家からの資金調達にも成功しました。

ロサンゼルスでも事業を始め、今後、ニューヨークに広げていく計画です。

必要は発明の母

家賃がそんなに高いなら郊外に引っ越せばいいじゃないか、とも思いますが、魅力的なサンフランシスコに住みたいと若い人たちを中心に都心回帰と職住接近の傾向が強まっています。

そんなニーズに応えようと若い経営者が始めたビジネスは、モノを持たないシェアリングエコノミーの流れにも合っています。

家賃高騰という社会問題を逆手にとって活躍の場を広げる若い起業家たちが、私にはとてもまぶしく映りました。

何よりも、競争の激しいベイアリアで挑戦する日本人の頑張りを、うれしく思いました。

飯田 香織
ロサンゼルス支局長
飯田 香織
1992年入局
京都局、経済部、
ワシントン支局などをへて
2017年夏からロサンゼルス