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体育会“ゲーム部”に沸くアメリカ

「まさかゲームの能力が評価されて大学から奨学金をもらえるなんて」と語るのはアメリカの名門、カリフォルニア大学アーバイン校の学生です。この大学にはゲームを専門に行う「eスポーツ部」があって、14人の部員全員が奨学金を得ています。奨学金を受け取るには、筋トレをするなどさまざまな条件があって、日本的な感覚で言うと「体育会ゲーム部」のようなものです。大学、ゲーム開発会社、ゲーム機メーカーなどを巻き込んで層が分厚くなっているアメリカのeスポーツについてお伝えします。(ロサンゼルス支局記者 飯田香織)

家庭用ゲームと違う スポーツなゲーム

ゲームはゲームでも、家庭用のゲームとは全く違います。高性能の半導体、高速の画像処理技術を搭載したパソコンを使います。

マウスやキーボードを動かし画面上のキャラクターを操作、2チームに分かれて相手を倒したり、相手の本拠地を破壊したりすることを目指します。

三次元の空間で自分の位置を確認し、瞬時に取るべき行動を判断する反射神経が問われます。

多くの場合、5人または6人によるチーム戦のため、仲間とのチームワークも欠かせません。また、競技は長時間に及ぶため体力も必要です。

そんなゲームをスポーツの競技ととらえるのがeスポーツです。プロのeスポーツは、韓国やヨーロッパで盛んですが、アメリカではこのところ大学の間で優秀なゲーマーを積極的に獲得する動きが広がっています。

奨学金でゲーマーを集める大学

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カルフォルニア大学アーバイン校

全米eスポーツ大学連盟によりますと、eスポーツ選手の入学を促すために奨学金制度を用意している大学は現在、50以上あります。

私が取材したカリフォルニア大学アーバイン校は公立大学として去年初めて奨学金制度を設けました。

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eスポーツ部

eスポーツ部責任者のマーク・デピさんは、「優秀な選手は集中力、スタミナ、技能、瞬時の判断力、それにコミュニケーション能力に優れている」と話していました。

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マーク・デピさん

こうした優秀な生徒がゲームに専念できる環境を整えるためにも奨学金は必要だというのです。選手の誰に聞いても、同じような答えが返ってきましたが、クールな印象のニック・テオドラキス選手(経済学専攻)が、「ゲームばかりやっていては大学進学は無理だと言っていた母も奨学金をもらえて喜んでいる」と笑みを浮かべて話していたのが印象的でした。

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ニック・テオドラキス選手

この大学では週3回、授業のあと2時間、さらに隔週の土曜に4時間、チームとして合同練習をします。これとは別に選手ごとに個別メニューで練習するほか、ゲームを続けるのに必要な体力をつけるために筋トレも必須となっています。ことし9月には筋トレを指導する専門のトレーナーも配属されました。長時間に及ぶゲームで集中力を保ち、素早く操作するにはなんと言っても筋力が必要だというわけです。

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トレーニングに励む学生
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筋トレも頑張っています

なぜそこまでやるの?大学の思惑

なぜ奨学金制度まで用意して大学がeスポーツに力を入れるのか、それは優秀な人材を獲得するためです。

eスポーツの選手は、コンピューターサイエンスに詳しく、有能なエンジニアや研究者になる可能性が高いと大学では見ています。さらにeスポーツの強豪校として大学の知名度を上げることで、学生を集めるための広告効果も期待できるといいます。

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副学長のトーマス・パーハムさんは、eスポーツには4つの要素があると指摘します。ゲームの学術研究、競技性、大学や地域への貢献、さらにエンターテインメント。全米の大学から見学者の訪問が相次いでいるということで、「ここだけのeスポーツプログラムをどこよりも早くやっていきたい」と意気込んでいました。

企業もeスポーツを積極支援

企業も大学の「体育会ゲーム部」を積極的に支援しています。

アリーナと呼ばれるコンピューター室に配備されている最新鋭のパソコン80台は、ゲーム機メーカーのアイバイパワーが無償で提供したものです。この会社は、奨学金の資金などとして4年契約で日本円で約8000万円も拠出しています。

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アイバイパワー社

ロサンゼルス郊外にあるこの会社では、最先端のコンピューターを大学ごとに手作業でカスタマイズしていて、高いもので価格は数十万円します。

担当のタイロン・ワングさんは、「大学のスポンサーになることでゲーム機の購買層である若者に製品を宣伝できるため、資金提供には大きな意味がある」と話していました。

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タイロン・ワングさん

eスポーツに力を入れる大学との関係を強化することで製品の知名度を高め、販路拡大につなげる狙いです。さらに会社が有名になれば優秀なIT技術者を獲得できるようにもなるということで、大学への支援は一石二鳥だといいます。

広がるビジネスチャンス

10月、ハリウッドにeスポーツ専用のスタジオができました。アメリカのゲーム開発会社のブリザード・エンターテインメントは、このスタジオで行われるプロ選手や大学生によるeスポーツの試合をインターネットで配信しています。

eスポーツをコンテンツとして確立させ、新たなビジネスにつなげようとしていて、中継用の解説者席まであります。他人がゲームするところを見て、いったい何が楽しいのか、この会社のキム・パーンさんは「プロのゲームを見ることで、自分にはできないような技を観察して新たな戦略を学べる。観戦してひいきのチームを応援するのも楽しい」と、その魅力について話しています。

このスタジオからは、長年、人気のテレビ番組が放送されていたことから、eスポーツをインターネットで配信するこうした動きは、ハリウッドで「放送から配信への時代の転換」と受け止められています。

eスポーツの配信事業にはネット通販大手のアマゾンも乗り出していて、今後、関連ビジネスが広がることが予想されます。

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中国でもeスポーツ 出遅れる日本

eスポーツを視聴する人の数は、来年、NBA=プロバスケットボールに並び、2021年には野球の大リーグを抜くという予想もあります(米アクティベート調べ)。

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こうした動きを見越して、中国は2022年の中国杭州アジア大会でeスポーツを正式な競技種目として採用することを決めました。IOC=国際オリンピック委員会も10月に「伝統的なスポーツ選手に匹敵するくらいの準備とトレーニングが必要だ」としてオリンピックの種目として採用を検討する考えを明らかにしています。

日本では家庭で個人が楽しむものとして広がったゲーム。ほかの国と比べると日本は独自の進化を遂げていることがわかります。巨大市場のアメリカや中国がeスポーツに力を入れることで、携帯電話市場で起きたような日本のガラパゴス化がゲーム市場でも起きる可能性が出てきています。

飯田香織
ロサンゼルス支局長
飯田香織
1992年入局
京都局、経済部、ワシントン支局などをへて
2017年夏からロサンゼルス