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ニッポンの鉄道 世界にどう挑む?

いま世界で鉄道建設をめぐる受注競争が過熱しています。世界中で大規模プロジェクトの計画が相次ぎ、その規模は年間24兆円にも達します。
この巨大市場を狙って、日本の鉄道車両メーカーも自社の車両を売り込もうと必死ですが、そこには規模で上回る海外の強力なライバルが立ちはだかっています。厳しい競争に日本勢はどんな戦略で挑もうとしているのか取材しました。
(ロンドン支局記者 栗原輝之)

拡大する鉄道市場

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世界の鉄道市場は年々拡大しています。 2019年~21年には年間24兆円の規模にまで成長すると見込まれています。経済成長に伴って新興国で人や物資を大量に輸送できる鉄道の需要が高まっているためです。

インドでは主要都市の間を高速鉄道で結ぼうと合わせて7つの路線が計画されているほか、マレーシアとシンガポールの間でも2026年末までの開業を目指して高速鉄道を建設する計画があります。

さらに先進国でも都市間を鉄道網で結ぶニーズが高まっています。アメリカでは南部のテキサス州で、日本の新幹線技術を活用しおよそ385キロを高速鉄道で結ぶ計画が進んでいます。

また鉄道発祥の地のイギリスでも老朽化した車両を高速鉄道に切り替える需要が高まっています。

新興国と先進国ともに高速鉄道の需要が高まっていて、いまがチャンスと世界の鉄道車両メーカーが販売攻勢をかけているのです。

鉄道発祥の地で走り始めた日本の車両

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こうした中、日本の最新型の車両がイギリスの線路を走り始めました。

車両を製造したのは日本で新幹線の車両も手がける日立製作所です。真新しい緑色の車両が、首都ロンドンと西部のウェールズ地方のおよそ300キロを結びます。

最高時速は200キロで、騒音を抑える工夫など新幹線の製造で培った技術が生かされています。

日立は、老朽化した車両を入れ替える総事業費8000億円のプロジェクトで、866両の車両の製造を受注しました。日本の技術力の高さを示そうと、車両の製造はイギリスに新たに設けた工場で行われました。

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運行初日には車内の水漏れなどのトラブルがありましたが、日立はすぐに対策を済ませ、その後は順調に運行を続けています。

ヨーロッパが注目した今回のプロジェクトの受注をきっかけに、信頼を積み重ねることができれば、今後に向けた大きなステップになります。

合従連衡が進む世界の車両メーカー

日本にとってライバルとなる世界の車両メーカーの間ではこのところ急速に合従連衡が進んでいます。
各メーカーの売り上げは次のとおりです。

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日本の2つのメーカーはいずれも新幹線を製造し、高度な技術を持つことで知られています。日立がイギリスで大型の受注を獲得したように、川崎重工もニューヨークやワシントンの地下鉄に車両を納入するなど国際的に高い評価を得ています。

それでも規模ではライバルに大きく後れをとっているのが現状です。海外のライバルメーカーは、受注獲得に向けて競争力を高めようと、いま相次いで合併や事業統合を進めています。

売り上げトップの「中国中車」は2年前に海外展開を見据えて中国国内の2社が合併して誕生しました。売り上げの中心は国内向けですが、低価格を武器に先進国市場で攻勢を強めています。

さらにことし9月には、ヨーロッパの2大車両メーカー「シーメンス」と「アルストム」も鉄道事業を統合すると発表しました。

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この2社はカナダの「ボンバルディア」とともにこれまで世界の市場をほぼ独占してきましたが、攻勢を強める中国中車に対抗するため事業統合を決断したのです。統合によって会社の規模を大きくすることで、価格競争力や開発力を強化できるからです。

日立の東原敏昭社長は、先行する海外メーカーの動きについて「シーメンスとアルストムは事業統合によって大きな企業体になる。中国中車と同様に脅威だ」と危機感をあらわにしていました。

戦略その1 生産体制の強化

規模で勝る世界のライバルに日本勢はどう立ち向かおうとしているのか。

その戦略の1つが、生産体制の強化です。

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大型プロジェクトの受注には、多くの車両を製造する力が求められます。このため日立は、イタリアの車両メーカーを買収し、ヨーロッパで生産拠点を取得しました。

ここでは現在、イギリス向けの車両を中心に生産を行っていて、今後は極めて精度の高い溶接ができる設備も導入します。どの地域に向けても日本と同じ高い品質の車両をまとまった数で納入できるよう生産体制を整えようとしています。

戦略その2 IT活用で車両を進化

もう1つの戦略がITの積極的な活用です。

10月に日立がヨーロッパの顧客向けに開いた事業説明会で全面に打ち出したのは、車両をITと組み合わせる仕組みでした。

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車両に取り付けたセンサーで、スピードの変化やブレーキの効き具合など、走行中のあらゆる情報を集めていきます。そして、正常に走った時の数値と比較しながら車両を監視します。大きな故障が起きる前にITで小さな異常をとらえ、修理にかかる手間やコストを省こうという狙いです。

また、駅のホームで待つ乗客の数をセンサーで感知し、それにあわせて列車の運行本数を自動で増やしたり減らしたりするシステムも紹介されました。このシステムは現在、デンマークの地下鉄で実証実験が進められていて、運行の効率を上げることが期待されています。

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このように車両価格そのものでは他社に勝てなくても、ITを活用することで保守や運行にかかるコストを引き下げられる点をアピールポイントにしています。

東原社長は「われわれは車両を納めたあとを含めた“ライフサイクル”のコストというアプローチをしている。全体を見て評価してほしい」と訴えていました。

日本の強みを生かすために

日本の鉄道技術はもともと世界から高く評価されています。

高い安全性はその最たるものでしょう。開業以来、半世紀以上にわたって乗客の死亡事故が一度も起きていない新幹線に代表されるように、日本の鉄道の距離当たりの事故件数はドイツの半分以下です。

大きな遅れがめったに起きない正確な運行も世界によく知られています。こうした強みは、車両の性能だけでなく、高度な運行システムやきちんとした保守管理、それを支える優れた人材がいてこそ、初めて成し遂げられるものです。

このため、世界の鉄道市場で生き残るには、人材を含めた経営資源を海外に積極的に振り向け、国を挙げて競争に臨んでいくことが重要になります。

さらに世界の企業との提携や買収を通じて、新しい技術を取り込むことも必要になってくるでしょう。日本政府は経済成長に向けて鉄道を含めたインフラ輸出を2020年に30兆円にする目標を掲げています。鉄道がその原動力となり、将来の成長に向かってレールが伸びていくことを期待したいと思います。

栗原輝之
ロンドン支局記者
栗原 輝之
平成11年入局
経済部、名古屋局、国際部をへて
ことし7月からロンドン駐在