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ビジネスマンよ、囲碁をしよう

11月15日は「いい囲碁の日」。みなさんは囲碁を打ったことはありますか? 井山裕太さんの2度目となる七大タイトルの独占や、人工知能とトップ棋士との対局などで注目が高まる一方で、囲碁に興味はあるけど打ったことはない、という人も少なくないようです。

そんな中、1人でも多くの人に囲碁に親しんでもらいたいと、会社を立ち上げた男性がいます。その思いは「囲碁による知的な出会いを届けたい」。これを読めば、あなたも一局、打ちたくなるかもしれませんよ。
(ネットワーク報道部記者 後藤岳彦)

囲碁を打ってみたいけど…

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東京・銀座の立ち飲みバー。お酒を片手に囲碁を打つ人たちの姿が…。 ここでは、立ったまま囲碁を打つちょっと変わったイベントが開かれています。ここで囲碁を覚えたという人や外国人の姿も多く、「囲碁を始めるきっかけ」として静かなブームになっています。

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イベントを主催しているのは井桁健太さん、26歳。学生時代に囲碁のサークルに入っていたこともあり、囲碁のアマチュア五段の腕前です。

井桁さんは、もともと食品メーカーの営業マンでしたが、大好きな囲碁をビジネスにつなげたいと、2015年に「囲碁の普及」を目指すスタートアップ企業を立ち上げました。その名も「IGOホールディングス」。囲碁を通じた「知的な出会い」の提供を掲げています。

「囲碁は高齢者が楽しむケースが多いですが、若い世代も参加できるよう、囲碁業界を活性化させたいと思っています。そして、囲碁を性別や年齢などに関係なく、人と人がコミュニケーションを図る場にしたいと考えて会社を立ち上げました」(井桁さん)

囲碁人口は減少している

このところ注目を集める囲碁ですが、残念ながら、囲碁を打つ人は減ってきています。日本生産性本部の「レジャー白書」によりますと、「1年に1回でも囲碁を打った」という人は、ピーク時の1982年はおよそ1130万人でした。しかし去年(2016年)は、およそ200万人。5分の1にまで減っています。

去年の内訳を年齢別で見ると、男性では70代が36.7%、女性でも70代が10.3%と最も多く、高齢者が多いのが現状です。イメージどおりと言うべきか、囲碁は若い世代には少し遠い存在のようです。

井桁さんは、囲碁を今以上に広めていくためには、若い世代に囲碁の魅力を知ってもらうことが欠かせないと考えています。

「若い層が囲碁を覚えれば、子どもたちに囲碁を教えて、家族で囲碁を打つようになる。子どもたちも親に負けたくないとさらに上達しようとします。今は囲碁のプレーヤーの中心は高齢者ですが、いずれはプレーヤーのすそ野を広げていくことが大切だと考えています」

まず、取っかかりをつくる

井桁さんがまず取り組んでいるのが、「囲碁の入り口づくり」です。

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11月のある土曜日、東京・国分寺市の喫茶店で開かれたイベントを取材しました。大学生からお年寄りまで15人の初心者が参加。井桁さん自身も参加します。

囲碁の一般的な対局には、縦横それぞれ19本の線が引かれ、石が置ける交点が361か所ある「十九路盤」が使われます。しかし、イベントでは初心者が多いことから、6×6の「六路盤」や9×9の「九路盤」を使って学びます。

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1時間もすると、初心者でも少しずつ打てるようになっていきました。そして打ち終わると、なぜその打ち方をしたのかなど相手との会話が弾みます。

「囲碁は、どこに石を置いてもいい。ルールは決して難しいものではない。要は囲碁への取っかかりをつくることが大切なんです」(井桁さん)

およそ2時間、囲碁を学んだ参加者は「おしゃれな喫茶店なら気軽に打つことができる」「とても集中が高まる。囲碁を続けたい」と口々に話し、井桁さんの目指す「知的な出会い」を予感させました。

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3か月でアマチュア初段

もう一つの取り組み、それは「個人向け囲碁上達プログラム」です。

ターゲットは、仕事で忙しい30代から40代のビジネスマン。通常は1年半から2年はかかる囲碁の「アマチュア初段」の認定を3か月でとれるというプログラムです。

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井桁さんによりますと、アマチュア初段は、市民ランナーがフルマラソンを4時間以内で走りきる「サブフォー」や、ゴルフのスコアで100を切るのと同じぐらいに難しいとのこと。これを3か月で達成させるというプログラムです。井桁さんは、忙しいビジネスマンのために、あえて「3か月」という目標を設定しました。

「普通に囲碁を打つのなら、地域の教室に時間をかけて通えばいい。しかしそれでは差別化になりません。ビジネスマンにとって囲碁は、人とのコミュニケーションを深めたり、集中力を高めたりするためのツール。何かを達成したい、でも時間がない。そう考えるビジネスマンにとっては時間への投資でもあります。あえて難しい目標を設定することで、自分を成長させたい人は『絶対に目標をクリアしてみせる』となるのです。本腰を入れて取り組むのではないかと考えました」

囲碁で“結果にコミットする”

なぜ3か月で初段が取れるのか?
それは、「とにかく勝つ」ことを目指した徹底指導にあるようです。

講座は週に2回、3か月間で24回。講座がない日にネット上で指導を受けることも。詳しい講座内容は秘密としていますが、受講生は最低限の基本ルールを学んだあとは、実戦を何度も繰り返しながら「相手の陣地の荒らし方」など、とにかく勝つためのテクニックをたたき込まれるようです。対局ごとにインストラクターから講評も受け、初心者から初段まで一気に駆け上がります。

3か月のプログラムを終えたら、日本棋院が主催する認定大会に出場します。これまでに50人が参加。ビジネスマンだけでなく、中には70歳を超える人もいました。残念ながら段位に達しなかった人もいますが、すでに10人が初段や二段の認定を受けました。

受講料は17万円余りとなかなか本格的な料金ですが、参加した人からは、「3か月という短い期間だからこそ、一局一局真摯(しんし)に囲碁を打つことを通じて、自分と向き合うことができた」「全くの未知のジャンルを一定のレベルまで引き上げる体験をしたかった」など、達成感を感じているという声が寄せられています。

囲碁で始まるコミュニケーション

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囲碁の普及を目指すビジネスは、まだ始まったばかり。囲碁人口の減少に歯止めがかかるかどうかはわかりませんが、井桁さんは、囲碁がコミュニケーションを図るツールとして役立つと考えていて、今後、企業の研修に囲碁を取り入れる事業も進めていきたいと話しています。

「囲碁はルールも多くありません。そのシンプルさがゆえに、『年齢・性別・言語・国籍・人種・身体能力』といった、コミュニケーションの壁を取り払える力があります。壁をなくしてコミュニケーションをとることで、通じ合えるのではないでしょうか」

企業の経営者の中にも囲碁を打つ人も多いようですし、私も取材を通して、自分で打ってみたいという気持ちが高まりました。仕事が終わったあとに、あるいは休日に、仕事仲間や家族とちょいと一局、囲碁でコミュニケーションを深めるなんて、いいんじゃないですか?

後藤岳彦
ネットワーク報道部記者
後藤岳彦
平成14年入局
震災復興、鳥獣被害対策
ふるさと納税など地域課題を取材