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いざなぎ超え データで探る中間層の実像

日本の景気は4年10か月にわたって拡大し、「いざなぎ景気」を超える長さになった可能性が高いー

政府が25日示した見解です。いざなぎ景気と言えば、1960~70年代、日本人が日々成長を実感し、「1億総中流」という意識が定着した高度経済成長まっただ中の頃。今の景気は、長さでは、それを超え、戦後2番目の回復の途上にあるということです。
とは言え、街から聞こえてくるのは「回復を実感できない」という声ばかり。今回の景気回復、データから点検してみようと思います。
(どうなる経済“新時代”取材班)

景気 強い指標ばかりだけど…

今の景気回復が始まったのは2012年12月。「大胆な金融緩和・財政出動・成長戦略」の「3本の矢」を掲げた、いわゆる「アベノミクス」のスタートと同時です。特に日銀による大規模な金融緩和が円安・株高をもたらし、企業の業績は改善しました。

企業の経常利益は、2013年度から4年連続で過去最高を更新。企業の貯金も増えました。「内部留保」は、2012年度から5年連続で過去最高。2016年度に企業の蓄えは400兆円を超えました。(財務省:法人企業統計調査)

株価は2倍以上に。日経平均株価は2012年11月には1万円を割り込んでいましたが、2万円台を回復。20年ぶりの株高をうかがう水準に。日銀の統計を見ると株式や投資信託を保有している人は資産を着実に増やしています。

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雇用は43年ぶりの状況に改善。有効求人倍率は、すべての都道府県で「1」を越えました。仕事を選ばなければ、全国どこでも就職先を見つけられるという意味です。1963年に統計を取り始めて以来、初めてのことです。

数字を見れば、確かに景気の回復を示す指標が目立ちます。

実感できない“中間層”

しかし、それでも聞こえてくるのが「景気回復の実感がない」という声です。

なぜなのか?

厚生労働省の「国民生活基礎調査」という統計で、同じ家に住んで生計をともにする「世帯年収」の変遷をバブル景気の頃からさかのぼって調べてみました。

注目したのは、世帯年収の「中央値」。年収別に世帯を並べたときに、ちょうど真ん中に位置する家庭です。これを見れば、いわば日本の「中流世帯」「中間層」が見えてくると考えたからです。

それをまとめたのがこのグラフです。再生してみて下さい。

グラフは、年ごとの世帯年収の分布を示しています。右上には、その年の年収の中央値の金額。グラフの濃い黄色で色づけした部分が中央値(中間層の年収)にあたります。これを見てもらえば、中央値がいったん右に動いて上昇し、その後、左に戻って下落したことがわかります。

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今から32年前、バブル景気前夜の1985年の世帯年収の中央値は418万円。収入は増え、バブル景気が終わった平成3年には521万円に。その後、1995年に年収の中央値は550万円に上がってピークをつけました。「中間層」の底上げが進んだ形です。

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しかし、そこから年収は下がり始めました。2001年に500万円を割り込み、その後は、400万円台に逆戻り。2014年からは少し上向きましたが、最新の2015年のデータで中央値は428万円。ピークに比べ122万円低くなっています。中間層の収入は下がり、所得の低い世帯の割合が増えているのもグラフから見えてきます。

この状態をどう見たらいいのか?

みずほ総合研究所のチーフエコノミスト、高田創さんに聞きました。「日本の中間層がずり落ちてしまった。日本経済は『分厚い中間層』が特徴で、消費を支える重要な層だった。そこが薄くなってしまった」と話しています。そして、中間層が弱くなったことが、景気回復を実感できない理由だと指摘しています。

共働きが増えたのに…

もう1つグラフを見てください。世帯年収の「中央値」と「共働き世帯」の動きを重ねてみました。

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共働きの世帯は年々増え、1992年に専業主婦世帯を上回り、今は1100万世帯を超えています。専業主婦世帯のおよそ1.7倍です。高齢化が進み、年金生活などで収入が低い「高齢者世帯」が増えているという事情はもちろんありますが、グラフからは、共働きが増えているのに、中間層の世帯年収は下がっている、という姿が浮かび上がってきます。

何人かの経済の専門家に聞きましたが、非正規で働く人が増えていることを理由に挙げる人が何人もいました。年功序列型の賃金カーブに乗れず、年を重ねても、所得が伸びない人が増えてきていることが、データの裏に見えるというのです。夫婦2人で非正規雇用という若い世代が増えていることも指摘しています。

「中間層の年収が下がると、消費は停滞せざるをえない。非正規雇用が増えたことで、将来への不安が高まり、住宅や車など大きな投資もしづらくなっている」と影響を指摘しています。

しみついたマインド変えられるか?

ではどうしたらいいのでしょう? みずほ総合研究所の高田創さんは、景気回復の期間は長いけれども、今の日本は“低温経済”のような状態だと指摘します。実は、アメリカ、ヨーロッパにも共通した成熟した先進国共通の悩みで、特効薬は見当たらないのだと話します。

ただ、景気を上向かせるには中間層の底上げが必要なことははっきりしていて、まず、賃上げが第一歩だと強調しています。そのうえで、「できるだけ景気回復の期間を長くし、その間にさまざまな政策を総動員して、この20年間に染みついた『物価も賃金も上がらない』というマインドをいかに変えていくかが大切だ」と話しています。

「いざなぎ」を超えても実感乏しい景気。今回は「中間層」の世帯年収の変遷でその理由を探りました。年金や医療など社会保障の保険料の負担も増加しているため、勤労者世帯の「可処分所得」が抑えられているというデータもあります。

岐路に立つ日本経済はどこに向かっていったらいいのか、その課題を、さまざまなデータを見つめ、今後も考えていきます。

(どうなる経済“新時代”取材班:経済部 篠崎夏樹 野口恭平 中島圭介)