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アジアのビール市場で成功するには?

少子高齢化や若者を中心とするビール離れによって、市場が12年連続で縮小するビール業界。居酒屋に入って「とりあえずビール!」という人も少なくなっているかもしれません。

こうしたなか、日本のビールメーカーは、海外事業を新たな収益の柱に育てようとしています。なかでも進出先として注目されるのが、経済成長に伴ってビールの消費が拡大する東南アジアです。
(アジア総局記者 岩間宏毅)

トップブランドを買収したキリン

毎年7%前後の経済成長を続け、日本企業も進出を加速させるミャンマー。ここに”国民的ビール”とも言える人気ブランドがあります。現地最大手のミャンマーブルワリーが生産するミャンマービールです。

20年余りに前に設立された比較的新しいメーカーですが、国内シェアおよそ80%を誇るトップブランドです。ミャンマーの町なかを歩くと、仕事帰りの人たちがミャンマービールを片手に談笑する姿をよく目にします。

実はこのメーカー、2年前に日本の大手ビールメーカー、キリンホールディングスが買収しました。ミャンマーのビール市場は、日本のおよそ20分の1とまだ小規模ですが、経済発展に伴ってビールの消費量が着実に伸びていること、さらに圧倒的なシェアが生み出す高い利益率が買収の決め手となりました。

今も需要の拡大に供給が追いつかないほど販売は好調で、会社では工場を拡張し、来年までに生産能力を40%増やす計画です。ミャンマーブルワリーの南方健志社長は「ビール市場は毎年7~8%伸びており、この勢いは今後も経済成長とともに続く」と市場の将来性に期待を強めていました。

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事業拡大を脅かす“違法ビール”

しかし、事業拡大の妨げとなっているミャンマーならではの問題があります。それは国外から流入する違法ビールの存在です。

ミャンマーではビールの輸入自体が禁止されていて、国内産のビールしか販売できません。ところが陸続きのタイや中国から違法にビールが輸入されているのです。

こうしたビールは、税金を支払っていないため、正規のビールより3割ほど安い価格で売られています。違法なビールが輸入されている現場を確認しようと、私はミャンマーと国境を接するタイ北部の町、メーソートに向かいました。両国をつなぐ橋のそばには税関があり、ミャンマーに輸出される商品は、税関でチェックを受けることになっています。

ところが、その橋の周囲には無数の船の渡し場があります。そこでは税関のチェックを受けることなく、日用品などとともに大量のビールがミャンマーへ運ばれていました。

正式な統計はありませんが、違法に輸入されたビールは、正規のビールの出荷量のおよそ30%に上ると見られます。ミャンマーの町なかにあるコンビニでは、違法なビールが正規のビールと並んで売られていて、1本当たり日本円にして50円程度で買うことができます。

違法ビールの存在は、正規のビールの販売に悪影響を与えかねず、キリンでは、政府に取締まりを強化するよう求めています。ただ遠く離れた国境まで、政府の取締まりが及ばないのが実情で、密輸が減る気配は一向にありません。

違法ビールの流通をいかに防ぎ、トップブランドの地位を守り続けられるか、こうした点がミャンマーでの事業の成功の鍵を握っていると言えます。

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サッポロブランドをベトナムへ

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一方、自社ブランドでアジア市場に攻勢を仕掛けるメーカーもあります。7年前にベトナムに参入したサッポロホールディングスです。

ベトナムのビール市場は、10年間で3倍に拡大していて、世界屈指の成長市場として注目されています。この成長性にサッポロは早くから着目し、50億円余りをかけて工場を建設。日本の高い醸造技術で自社ブランドのビールを作り、高級志向を売りに市場を開拓しようとしています。

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しかし、世界が注目するベトナムでの競争はしれつです。スーパーの売り場には、ベトナムのサイゴンビールはもちろん、オランダのハイネケン、デンマークのカールスバーグといったブランドが並び、知名度の低いサッポロビールは思うように売れませんでした。

このため、サッポロでは、多額の費用をかけて広告を出したほか、レストランなどに商品を置いてもらうために販売費を増やしましたが、これが裏目に出て、ベトナム事業は6年連続で赤字になってしまったのです。

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精鋭の営業チームで市場開拓

この流れをどう断ち切るか。

会社ではブランドの浸透を図るため、新たに6人の精鋭からなる営業チームを結成しました。このチームは2人1組でバイクに乗って、1日20軒のレストランを訪問します。人気のレストランに商品を置いてもらえれば、店を訪れる客の口コミで知名度を高められると考えたのです。

商談では、サッポロのブランドの歴史や、商品の特徴などもじっくり説明します。また、低価格のビールが売れているベトナム市場にあわせ、価格を抑えた新商品を開発し、競合他社に対抗しようとしています。こうした取り組みによって、商品を置いてくれる店の数は徐々に増えていると言います。

サッポロベトナムの正脇幹生社長は「今までは販売費がかかって過剰投資に陥っていた。単に数量を追うのではなく、地道にブランドを育て、当社の商品を喜んで飲んでもらえるお客さんを増やす。長い目で見た形の営業活動を続けていきたい」と話していました。

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成長市場にどう向き合うか

東南アジアは高い成長を続ける魅力的な市場である一方、世界の強豪メーカーとの競争もしれつです。ただ、人口減少や高齢化で国内市場の縮小が避けられないなか、ビールメーカーは海外の市場になんとか活路を見いだしたいと考えています。

それだけに各社には、現地特有の事情や課題に柔軟に対応するなど、ビジネスを根づかせるための緻密な戦略が求められていると取材を通じて感じました。

岩間宏毅
アジア総局記者
岩間宏毅
平成12年入局
経済部で自動車、金融・証券、
経産省などを取材
現在 アジア総局