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SNSが生みだす新しい消費

最近の若い人はお金を使わない、とよく言われます。若者の消費マインドをどうやってくすぐるのか? 多くの企業が日々それを考えています。とはいうものの、若い人たちは別に節約ばかり考えている訳ではなさそうです。ツイッターやインスタグラムに投稿される大量の写真や動画を眺めていると、SNS時代の新たな消費のカタチが浮かび上がってきます。
(経済部・篠崎夏樹)

「写真映え」求める“新しい消費者”

インスタグラムの投稿を見て、取材をお願いした千葉県の大川恵梨さん。その日のファッションやランチで食べた料理、流行のお菓子などを、毎日、欠かさず投稿しています。

「写真をアップして『いいね』がつくとうれしくて、すっかりはまっています。かわいいお菓子を投稿すると、たくさん反応してくれるので、ちょっと高くても、1200円くらいまでなら、ついつい買っちゃいますね」と話してくれました。

遊びに行くのも、写真映えする場所。この夏はすでに、湘南など2か所の海に行き、その様子もしっかりアップしました。取材の日は、自分でチョコレートなどをトッピングできると話題のかき氷店に行き、パシャパシャ写真を撮っていました。

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大川さんのような、SNSを楽しむためにお金を使う新しい消費者はどれくらいいるのでしょうか。

消費者庁が、ことし3月、インターネットを通じて行った「消費生活に関する意識調査」に、それをうかがうデータがあります。全国の15歳から95歳の男女3000人のうち、写真や動画をSNSに投稿している人は全体の25%。撮影のために何をしたか複数回答で聞いたところ、「旅行」が45.6%、「外食」が38.7%、「友達と集まる」が26.9%。投稿のために旅行や外食にお金を使う新たな消費は、着実に広がっているようです。

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「泳がないプール」が大ヒット

そんな若い消費者を、この夏、ガッチリつかんだのが、夜、営業するナイトプール。もともとは東京都心のホテルなどでの宿泊客向けのサービスでしたが、「写真映えする」と評判に。利用するには1回数千円かかり、決して安くはありませんが、利用者は増え続けているといいます。

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この人気に目をつけたのが、東京都内の遊園地「としまえん」です。ことし30年ぶりに夜の営業を復活しました。料金は午後6時から9時までで1500円です。取材に行ってみると、プールサイドもプールの中も、スマートフォンを手に、写真を撮りあう女性たちばかり。メイクはしっかり、髪の毛もぬれてはいません。写真映えがするフラミンゴや白鳥の浮き輪を持参している女性もいました。

中には水着を持たずに、写真を撮るためだけに来ている女性グループも。「大人女子は、水着は持ってきません。さっき、足だけ水につけて、プールを楽しみました。インスタ映えするので、ここに来たんです」と。

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SNSで「ナイトプール」と打ち込んで検索すると、「ナイトプールで本気で泳いじゃった、私たちって女子力低い!」という投稿も。小さな子どものいる私にとって、わざわざプールに来たのに泳がないのは、正直、理解できないのですが、大盛況のナイトプールを見ると、SNSが新しい消費を生み出す原動力になっていることが実感できました。

事業企画課の宮内靖代さんも「ふだん、遊園地に足を運ばない若い人たちがこんなに訪れてくれるとは」と期待以上のブームに驚いていました。

商品開発はSNSから

SNSの投稿をきっかけに生み出される新しい消費。日々の大量の投稿から、若い消費者の動きをいち早く読み解き、商品やサービス開発につなげようと企業も真剣になっています。

こうした企業のニーズに応えるため、東京のベンチャー企業「ジャパン・カレント」は、投稿された画像に何が写っているかをAI=人工知能を使って解析し、商品開発のヒントを提案するサービスを始めました。

マーケティングディレクターの中大路智崇さんの話では、「SNSの投稿には消費者の生の声が反映されている。これを商品開発に使いたい」という依頼が増えているといいます。

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なぜ画像を分析するのか。

ツイッターなどに投稿される文字情報ではわからない、若い消費者の日常の細かな様子を知ることができるためです。例えば、“ビールのつまみに何を食べているか?” “部屋のインテリアに何を飾っているか?” さまざまなことが写真から見えてくるといいます。

若者向けアクセサリーのメーカーから依頼を受け、中大路さんは、ターゲットの20代から30代の女性にはペットの犬や猫の写真を投稿する人が多いと分析。ペットとペアのアクセサリーの商品化を提案しました。

「SNSの分析結果という、データの裏付けがあれば、社内でも議論しやすい」とメーカー側も前向きに受け止めていました。

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消費者と生みだす新商品

SNSのユーザーに、直接、協力を求める企業も増えています。大手旅行会社の「エイチ・アイ・エス」は、インスタグラムに専用のアカウントを作り、旅先からの投稿を募集。この1年半で、27万枚もの写真を集めたといいます。

写真は、街角のビルや塀に描かれた「壁画」や、ホテルや路上にしきつめられたかわいい模様の「タイル」など、旅行会社の社員の目にはとまらない、旅先の風景が無数に投稿されていました。

エイチ・アイ・エスは、この目線で新しいツアーを開発しようと、頻繁に投稿する人を「タビジョ・レポーター」に選び、会社が費用を負担して旅行に行ってもらい、写真や動画を自由に撮ってもらう試みを始めています。

この夏、マカオを訪れた「タビジョ」の女性は、観光名所回りにはあまり関心をもたず、SNSで写真映えしそうなポイントをあらかじめ検索。無名のかわいいカフェなどを訪ねては写真を投稿していました。

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女性から送られてきた写真をもとに、会社では、マカオの写真映えするポイントをめぐる新しいツアーを検討することにしています。すでに、ハワイやバリ島、ソウルなど若い女性に人気の場所で、夕日が見える海岸など写真映えするスポットをリムジンでめぐるツアーを売り出しています。

SNS戦略を担当するチームリーダーの丹下陽一郎さんは「企業が、一方通行で情報を提供する時代はすでに終わっていると思います。われわれも色々な情報を消費者からいただいて、一緒に旅行を作っていくという姿勢が必要だと思います」と話していました。

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“半歩先”を提案するのは消費者

小売りの業界では「消費者が求める『半歩先』の商品を提案できればニーズが生まれる」と言われ、企業は、その「半歩先」を提案するのを競争してきました。

しかし、今回、いろいろ取材してみて、若い消費者がSNSに投稿しながら、企業が想像していなかった「半歩先」の楽しみ方を見つけ出していると感じました。あすは、どんな新しい消費のカタチが生みだされるのか、取材していきたいと思います。

篠崎夏樹
経済部
篠崎夏樹 記者
平成11年入局
山形局をへて
財務省や内閣府を担当