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成長のカギは “こだわり消費”

大量生産の商品にお金を使う気は起こらなくても、自分の好みや趣味にピッタリあったものには、お金を使ってもいいー。消費者の好みや興味が多様化するなか、消費者のこうした“こだわり”に応えるサービスがいま、急成長しています。消費者のこだわりに応えることで、日本経済の回復に欠かせない個人消費の活性化につなげることはできるのでしょうか。(経済部 楠谷遼記者)

職人が縫う自分だけの洋服

インターネットで注文すると、全国各地の洋服などの仕立て屋さんが自分だけの1点モノの洋服を作ってくれるサイト「nutte」。スタートから2年余りで利用者が2万人まで急増するなど、人気を集めています。

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このサービスを利用している埼玉県内に住む50代の女性の“こだわり”は「北欧風」。以前旅行した北欧の雰囲気に魅せられて、部屋のカーテンやクッションは北欧風のデザインで統一しています。洋服も北欧柄のものを探していましたが、デパートなどで自分の好みにピッタリあったものはなかなか見つかりませんでした。生地だけ買って自分で作ろうとも考えましたが、それにも限界があると諦めていたところ、出会ったのがこのサービスでした。

サイトから、例えば「北欧風の生地でワンピースを作ってほしい」と注文を出すと、全国各地の縫製職人が価格やデザインなど条件を提示。気に入った職人を選んで洋服をつくってもらう仕組みです。サイトに登録しているのはおよそ1000人。職人によって得意分野が異なり、洋服だけでなく帽子や、バッグなど、さまざまな要望に応えてもらえるということです。

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この女性は、今回、スカートやトートバッグなど5点を注文し、金額は合わせておよそ2万円。安いわけではありませんが、“こだわり”を満たしてくれるものへの出費は惜しくないといいます。「自分の好みと少しでもあわない商品にはお金を使おうとは思わないが、このサービスだと、自分の好きな生地で好きなものを作ってもらうことができる。とても楽しいので、商品が届いたら次は何を頼もうかなという感じでどんどん使ってしまう」と話していました。

縫製職人の収入アップにも

このサービス、縫製職人にとってもメリットがあります。この女性の注文を受けた東京・八王子市の職人は、芸能人の舞台衣装を手がけたこともあるこの道30年のベテランですが、メーカーなどからの依頼は不定期で収入が安定しないという課題を抱えていました。そこで、空き時間を有効にいかし収入アップにつなげようとこのサイトに登録。自分が得意な仕事を自分のペースでできて収入が安定し、何よりも培ってきた自分の技術を生かせることに魅力を感じているといいます。

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この職人は「店では売っていないようなこだわりの商品の依頼を受けることも多く、自分でも気付かなかったニーズがあるんだなと驚かされることもあった。依頼主が作ってほしいと思うものがあっても、頼める職人はなかなか身近にいないのものだが、このサイトを通じて依頼してもらえると、自分も技術を生かせるし、お互いにメリットがある」と話していました。

こだわりのミニツアーも人気

消費者の多様な“こだわり”に応えるサービス。観光ツアーでも新たな動きが出ています。

「絵本好きのための書店巡り」や「小説の舞台をめぐる旅」など、“こだわり”のある消費者の心をくすぐりそうな数々のユニークなツアーを予約できるサイト「TABICA」が人気を集めています。こうしたツアーを考えるのは、調理人、カメラマン、農家、鉄道マニアなど1000人余りに上る多彩なプランナーです。それぞれが持つ深い知識や経験をもとに、旅行会社ではあまりないような専門的なツアーを提供できるのが特徴で、利用者はおよそ2年でのべ1万人に上っています。

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このサイトの中でも特に人気が高い、東京・谷中の街歩きツアー。ツアーの目的は、開発が進み、姿を変える街並みのもともとの姿を探りながら都市の地形や、歴史を学ぶというもの。案内するのは、趣味が高じて都市の地形を解説する本も出版したという街歩きの愛好家です。参加料金は2500円。大手旅行会社の観光ツアーには飽き足らない人たちをひきつけ、ツアーは、毎回、満員です。

サイトの運営会社の上田祐司社長は、「消費者のニーズは多様化していて、だいたいの体験はもう飽きているという状態だと思う。サイトでは、ほかではなかなかないプランをたくさん用意しているので、どんなこだわりをもった消費者にも満足してもらえるのではないか」と話していました。

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景気回復のカギは”こだわり消費”!?

日本経済のいわば“通知表”とも言われるGDP=国内総生産。5月18日、ことし1月から3月までの速報値が発表されました。「個人消費」が0.4%のプラスとなり、全体を押し上げた結果、年率でプラス2.2%と、およそ11年ぶりに5期連続のプラスとなりました。今後も個人消費を活性化させて、日本経済の回復を続ける上で、専門家は消費者の“こだわり”に応えることが重要だと指摘しています。

ニッセイ基礎研究所の櫨浩一専務理事は、「モノ不足の時代であれば、商品が多少、自分の好みとあわなくても買うしかないところがあったが、今の消費者は非常にモノを持っているので、自分のほしいものとぴったり合うものがあればお金を使うが、そうでなければ少し我慢しようかということになりがちだ。消費者のこだわりを捕まえて、それに応えることで、眠っている需要を掘り起こしていくことが消費の活性化に重要だ」と話していました。

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消費について街の人に話を聞くと、「そもそもほしいものが身のまわりにない」という声を聞くことが少なくありません。しかし、需要そのものがないわけではなく、ニーズにピッタリあったモノやサービスを提供できれば、埋もれていた需要を掘り起こす余地は十分にあると今回の取材を通じて感じました。

日本経済の回復を持続させるには、GDPの半分以上を占める消費のさらなる底上げが必要です。そのためには、賃上げの継続はもちろんですが、それだけでなく、細分化する消費者のニーズにしっかりと応えていくことも重要な鍵といえそうです。

楠谷遼
経済部
楠谷遼 記者
平成20年入局
鳥取局を経て、経済部
現在、内閣府を担当