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「てるみくらぶ」破綻の波紋

3月、東京の中堅旅行会社「てるみくらぶ」が裁判所から破産手続きの開始決定を受けました。利用客がすでに支払っていたツアー代金などは99億円、影響を受けた利用客は8万人から9万人にものぼります。ハワイやイタリアなど世界38の国と地域におよそ2500人の利用客が滞在しており、現地のホテルで追加の支払いを求められるなど甚大な影響が広がりました。
格安の海外ツアーを企画し、インターネットなどで広く販売することで成長してきた「てるみくらぶ」。破綻の背景には旅行業界を取り巻く急激な環境の変化もあります。(経済部 野口佑輔記者)

支払いは済んだのに…多くの利用客に影響

「お客様をはじめ、関係者の皆様に多大なるご迷惑をおかけしまして、誠に申し訳ございませんでした」

3月27日、国土交通省で開かれた記者会見で、てるみくらぶの山田千賀子社長は深々と頭を下げました。そして、会社が東京地方裁判所から破産手続きの開始決定を受けたことを説明しました。負債の総額はおよそ151億円。このうち、利用客からすでに支払われていたツアー代金などは、およそ99億円にのぼります。

会見の中で山田社長は、今後予定されていたツアーについて、「渡航先のホテルや交通機関、旅行代理店などに支払いができておらず、利用できない可能性が極めて高い」として、利用客に対し、この日以降の渡航を控えるよう呼びかけました。

東京・渋谷にある てるみくらぶの本社には、事情を聞こうと何人もの利用客が押し寄せました。結婚50年目に合わせてオーストリアを訪れる予定だったという77歳の男性は「すぐに入金しないと予約をキャンセルするおそれがあると会社から言われ、24万円余りを支払った。会社の事務所は目隠しがされて、ドアをたたいても反応がない。とんでもない会社に申し込んでしまった」と話していました。

観光庁によりますと、この時点で2500人がハワイやイタリアなど世界38の国と地域に滞在中で、ホテルなどで宿泊を断られるケースも出ました。
4月6日現在でも、てるみくらぶを利用して海外に滞在している人はおよそ400人で、現地のホテルなどで追加の支払いを求められるケースも出ているということです。

国土交通省は、海外にいる利用客が円滑に帰国できるよう、外務省と連携して対応しています。

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経営破綻の要因は?

てるみくらぶは平成11年に旅行業者として登録しました。会社の説明によりますと、航空会社から売れずに余った席などを安く仕入れて格安の海外ツアーを企画、インターネットを通じて広く販売し、成長してきました。

しかし、各航空会社が経営の効率化を図るために機体の小型化を進めるにつれ、座席が徐々に余らないようになり、割安な価格で座席を確保することが難しくなっていきました。さらに、おととしからはシニアの利用客を獲得しようと新聞広告を強化しましたが、これが裏目に出ました。広告費のために経費がかさんで、業績が次第に悪化していったといいます。

こうした要因で、てるみくらぶは資金繰りに行き詰まりました。航空券の仕入れを取りまとめる航空会社の業界団体、IATA=国際航空運送協会に対する、航空券の発券に必要なおよそ4億円の支払いが不能となり、経営破綻に至ったのです。

これを受け、てるみくらぶに関連する旅行会社「自由自在」も3月30日、裁判所から破産手続きの開始決定を受けました。

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ツアー代金の「保証金」は1%

今回の経営破綻で海外旅行に行けなくなった利用客に対する代金の弁済は、どのようになるのでしょうか。

旅行会社が経営破綻した場合には、業界団体の日本旅行業協会が支払い済みの代金を「保証金」で弁済する仕組みがあります。こうした事案は平成20年度以降に17件発生し、このうち15件で代金の全額が弁済されました。残る2件は、弁済の割合がそれぞれ70%と40%だったということです。

てるみくらぶのケースでは、影響を受けるのが3万6000件、人数にしておよそ8万人から9万人で金額はおよそ99億円にのぼる見通しです。これに対し、弁済に充てることができる「保証金」はわずか1億2000万円、率にして1%程度にとどまります。わずかしか弁済されないおそれが強く、影響の広がりは避けられません。

日本旅行業協会によりますと、ツアー代金の弁済を求める申請が相次いでいて、4月7日時点で3万件以上に上っているということです。

利用者への弁済率が低くなっている背景には、旅行会社のビジネスモデルが店頭販売からインターネット販売に変わってきたため、会社の資産がそれほど大きくなくても業務を拡大できるようになったことがあるという見方もあります。

内定取り消しも

さらに、影響はこんなところにも広がりました。厚生労働省によりますと、4月に、てるみくらぶに入社する予定だった50人余りが内定を取り消されたということです。

このため、業界団体の日本旅行業協会は、内定を取り消された人を対象に、加盟する旅行会社など40社を集めて就職面接会を開きました。面接会には35人が参加し、旅行会社などが設けたブースで1人ずつ面接を受け、旅行業界を志望した理由などを説明していました。面接会のあとは会社と参加者が連絡をとって合否が決まることになっていて、4月中に社員として採用したいという会社もあるということです。

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面接会に参加した22歳の男性は「海外旅行が大好きで、その楽しさを多くの人に伝えたくて旅行業界で働きたいと思っています。内定取り消しはショックでしたが、採用をもらうために頑張りたいです」と話していました。

日本旅行業協会の越智良典事務局長は「直前に就職の内定が取り消されるという事態はこれまでなかったので、業界全体でなんとかしないと、という気持ちで始めました。こういうことで学生たちの夢がつぶされてしまっては、と憤りを感じています」と話していました。

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粉飾決算の疑いも

てるみくらぶに関しては、粉飾決算の疑いも出ています。
裁判所に提出した申し立て書によりますと、少なくとも平成26年9月期から、営業損益が大幅な赤字に陥った可能性があるにもかかわらず、黒字に見せかける決算書を作り続けていたことがわかりました。

なかでも去年9月期の決算では、営業損益はおよそ1億1000万円の黒字としていましたが、実際は15億円以上の赤字で、この時点で財務の状態が74億円程度の債務超過に陥っていたというのです。

こうした深刻な経営状況にあったにもかかわらず、経営破綻の直前まで1日当たり1000件から2000件の海外旅行の予約を受け付けており、会社は経営の実態を偽っていた疑いがあるのです。

観光庁は事態を重く見て今後、旅行会社の経営状態を把握する新たな方法を検討していくことにしています。

格安モデルは限界?

格安ツアーで成長した てるみくらぶですが、専門家からは「格安ツアーのビジネスモデルの限界」を指摘する声も上がっています。
観光分野が専門の淑徳大学経営学部の千葉千枝子教授は次のように話します。

「航空機の中小型化で座席を安く確保しにくくなったのに加え、世界は今、“観光ビッグバン”とも言える状態。中国や東南アジアなどの経済成長で中流層が増え、国外に旅行する人たちが世界中で増えている。その分、ホテルなどはこれまで以上に予約が取りづらく、日本の旅行会社が“まとめて割安に”ホテルを確保することが困難になってきた。旅行会社の中には価格競争を過熱させているところもあり、今回のてるみくらぶのようなケースにつながったのではないか」

格安で海外旅行に行けることは消費者にとってはうれしいことですが、今回のような破綻が重なれば、せっかくためたお金をみすみす失ってしまうことにもなりかねません。現在の環境に合った新たなビジネスモデルの構築が求められているのかもしれません。

さらに千葉教授は、すでにツアー代金を支払った人に対して「保証金」では、わずか1%しか弁済されないおそれがあることを受け、「利用客の保護の在り方について見直すべき時期に来ている」とも指摘しています。

これについては国も改善に向けて動き出しました。
石井国土交通大臣は、旅行者への弁済の在り方などについて検討するワーキンググループを4月中にも立ち上げることを発表しました。有識者の意見を聞きながら検討を進めていく予定です。

多くの利用客に被害をもたらした、てるみくらぶの破綻。与えた損害は非常に大きくなる見通しで、これをきっかけに、今後の旅行業界に変化を及ぼすことにもなりそうです。利用客に対する弁済の在り方や、旅行会社の経営の監督の在り方はどう変わるのか。旅行会社の経営に何らかの影響を与えるのか。今後の旅行業界の行方を注視していきたいと思います。

野口佑輔
経済部
野口佑輔 記者
平成23年入局
高知局を経て
現在、国土交通省を担当