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今なぜ上昇?エンゲル係数

暮らしぶりを表す指標として知られる「エンゲル係数」。家計の消費のうち食費の割合を示すものです。戦後、日本の経済成長に伴って暮らしが豊かになり、エンゲル係数は下がり続けてきました。しかし、ここ数年、上昇が続き、去年は、およそ30年ぶりの高い水準になりました。なぜエンゲル係数は上昇しているのでしょうか?(経済部・楠谷遼)

上昇に転じたエンゲル係数

エンゲル係数は、食費を削ることには限界があるとして、係数が高いほど生活が苦しい状態を示すといわれます。エンゲル係数の推移を見てみると、終戦直後は60%を超えていましたが、その後、日本の経済成長にあわせて下がり続け、1992年に25%を割ってからは、20%台前半で推移していました。ところが、この4年間は上昇を続けていて、去年の平均は25.8%と、昭和62年以来、29年ぶりの高い水準になりました。

食品価格の上昇が相次ぐ

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エンゲル係数が上昇している要因として挙げられるのは、食品価格の上昇です。

総務省の消費者物価指数によると、食品全体の価格は去年、平均で1.7%上昇しました。特に生鮮野菜は価格の上昇が著しく、にんじんは前の年に比べて21.4%。はくさいは14.4%、ねぎは12.2%価格が上がるなど、生鮮野菜は平均で5%上昇しました。

また、生鮮野菜以外では、ミカンは15.5%、ビスケットは10.5%、チョコレートは8%価格が上がりました。総菜や冷凍食品などの調理食品も1.4%上昇しています。

これは、円安の影響で海外から輸入された原料の価格が上昇したこと。また、夏場に台風の上陸が相次いだことや長雨の影響によって、農作物が被害を受けたことなどが大きな理由です。

去年は、原油の値下がりなどの影響で、食品以外も含めた消費者物価指数(総合)は0.1%下落したので、 食品の値上がりが際立っていることが分かります。

収入上がらず家計の負担は増か

それでは家計はどれほどお金を使っているのでしょうか?

家計調査によりますと、2人以上の世帯の去年の1か月あたり消費支出は28万2188円。10年前の2006年の29万4943円より減少しています。しかし、食料費は7万2934円と10年前の6万8111円より7%ほど増えていますので、 食品価格の上昇がエンゲル係数を押し上げた大きな要因になったといえそうです。

収入の推移を家計調査からみると、2人以上の勤労者世帯の去年の平均はひと月あたり52万6973円と10年前の52万5719円とあまり変わっていません。 エンゲル係数の上昇は、暮らし向きが厳しくなっている状況を反映しているようです。

増える“総菜”ニーズ

ところがエンゲル係数の上昇には、社会構造の変化が関係しているのではないかという見方もあります。

平日の夕方6時すぎ。東京都内のあるスーパーマーケットに行ってみると、多くの仕事帰りの人たちがお総菜売り場で足を止めていました。話を聞いてみると、「帰りが遅くなる日は、自炊するのは大変なのでお総菜をよく購入している」とか、「子どものことを考えるとできるだけ自炊をしたいが、現実的に無理なので、一品ぐらいはお総菜を活用している」などと話していました。

共働き世帯は、この10年で10%余り増加。これにあわせたように、2人以上の世帯で1か月に総菜などの調理食品へ支出する金額は2006年の8202円から2016年には9494円と、15%余り増えています。(総務省「労働力調査」「家計調査」)。高齢化によって、お年寄りの世帯も増えていて、こうした世帯がお総菜などへの支出を増やしていることもエンゲル係数が上昇した一因と考えられます。

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大手流通チェーンのイオンは、去年の秋からお総菜などを店頭に並べるピークの時間帯をこれまでの午後4時から、午後6時以降にずらしました。仕事帰りの時間帯の品切れを防ぐとともに、できたての商品を手にとってもらおうという狙いで、この取り組みを始めたところ売り上げが1~2割ほど伸びたということです。

西野克デリカ商品統括部長は、「非常に手応えを感じている。今後も働く女性は増えていくと考えられるので、こうした需要にしっかりとこたえていきたい」と話していました。

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食の“プチぜいたく”が関係!?

消費スタイルの変化もエンゲル係数の上昇をもたらしているのではないかという指摘もあります。大きな買い物をする余裕はなくても、せめて「食」ではささかやなぜいたくを楽しみたいという人たちが増えているのではないかというのです。

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休日の都内のレストラン。家族とともにフレンチのコース料理を楽しむ女性の姿がありました。話を聞くと、この女性は、多いときで週4回、外食をしているといいます。もちろん、外食の大半は安い店で、高級レストランに行くことはめったにないといいますが、おいしいお店を開拓したり、食べたものを写真に撮って家族と見返したりできるので、外食は単に空腹を満たすだけではない、ある意味、レジャーのような+αの楽しみがあることが魅力だといいます。

一方でこの女性は「食」以外の支出はできるだけ抑えています。クルマは持たず、衣服も流行を追うことはないといいます。家にある冷蔵庫や炊飯器などの家電は結婚前に夫が使っていたものをそのまま使用。買ってから6年以上がたつものもありますが、壊れるまで買い替えるつもりはないといいます。エンゲル係数を計算してもらうと、平均よりかなり高い30%を超える月も珍しくありませんでした。話を聞くと「モノをもっていると、引っ越しや転勤のときに身動きが取りづらいのでなるべく身軽でいたい。最近、食以外のもので何かを欲しいと強く思ったことがあまり思い出せない」と話していました。

ネット上ではさまざまな意見も…

エンゲル係数の上昇をめぐってネット上では

「若者が車を持たない件でも感じるが、生活費がキツキツだから」とか

「非正規雇用を中心とした実質賃金の下落が、ついにエンゲル係数に反映した」という声がある一方、

「昔はエンゲル係数が高いと貧困ってイメージがあったけど、今はそうじゃない気がする。食はブランド品に負けないぜいたく品」とか

「健康に気をつかっていい食事をする人もいるわけで、一概にエンゲル係数と貧困を関連づけられる時代じゃなくなってきている」という声もありました。

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日本総合研究所の小方尚子主任研究員は、「今の日本は消費のスタイルが多様化していて、エンゲル係数の上昇を一つの理由だけで説明するのは難しい。食をレジャーのようなものと捉えて積極的に支出しようとしている人もいる一方で、やはり生活が苦しくて食以外の支出を切り詰めざるをえない人がいることも確かだ。こうしたさまざまな要因が重なった結果といえるのでないか」と話しています。

消費回復のヒントになるか

低成長が続く日本経済。その大きな原因は個人消費の伸び悩みです。収入が増えず消費にまわす余裕がない人もいれば、収入は増えても将来不安や欲しいものがないなどの理由でお金を使わない人もいます。その中にあって、お総菜や外食の需要は、共働きや高齢者の増加にあわせて今後も増え続けていく可能性があります。エンゲル係数上昇の背景をひもといていけば、消費回復につながるヒントが見えてくるかもしれません。

楠谷遼
経済部
楠谷遼 記者
平成20年 NHK入局
鳥取局を経て
報道局経済部で内閣府を担当