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揺れる? 受動喫煙対策

飲食店は原則禁煙、罰則も設ける。

厚生労働省が、今の国会に法案の提出を目指す受動喫煙防止のための対策です。スナックなどの小規模な飲食店の経営を危ぶむ声があがったことを受け、一定の面積以下の飲食店は例外とする案の検討が始まりましたが、対策をめぐっては、さらなる例外の拡大を求める意見もある一方で、全面禁煙を求める意見もあります。飲食店業界の抱える懸念、そして、対策の現状についての報告です。
(経済部・野口恭平)

“例外”拡大を検討

他人のたばこの煙を吸い込む受動喫煙防止のための対策が取り上げられた2月9日の自民党の厚生労働部会。厚生労働省が「『原則』建物内で禁煙」としてきた飲食店のうち、延べ床面積がおよそ30平方メートル以下で、主に酒を提供するバーやスナックなどの小規模の店舗を、禁煙の例外とする案の検討を始めたことに反発が相次ぎました。

前回・1月の部会で「小さな飲食店は経営が立ち行かなくなる」などと慎重な対応を求められたことを受けた対応でしたが、「一律で面積で線引きする根拠が不明だ」とか「面積が小さすぎる」などと批判的な意見が相次ぎました。

日本は遅れている?受動喫煙対策

当初、厚生労働省がまとめた対策案は、医療機関や学校などは「敷地内で禁煙」。官公庁や社会福祉施設など多数の人が利用する施設は「建物内で禁煙」。そして、飲食店やホテルなどのサービス業の施設、駅や鉄道、会社の事務所などは「『原則』建物内で禁煙」としていて、例外として、煙が外に漏れるのを防ぐ対策をとった喫煙室を設けることは認められていました。

違反した場合は、店の経営者や施設の管理者、それに、喫煙した人への罰則も盛り込まれることになっています。詳細はまだ未定ですが、一定金額の支払いを科すことが検討されているようです。

受動喫煙によって肺がんや脳卒中などで死亡する人は年間1万5000人(国立がん研究センター推計)に上るとされています。健康増進法などの法律で、多くの人が利用する施設では、受動喫煙を防止するために必要な対策をとるよう求められていますが、罰則がない努力義務となっているため、規制を強化しようというのです。

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飲食業界からの大反発!

厚生労働省が「『原則』建物内で禁煙」とした飲食店のうち、一定の面積以下は例外とする案の検討を始めたのは、業界からも強い反発があったためです。

ことし1月、外食産業の業界団体「日本フードサービス協会」など5つの団体は連携し、都内で反対集会を開催。多店舗を展開する外食チェーンの運営会社の代表や居酒屋やレストランの経営者ら約450人が集まりました。

参加者に取材してみると、悲痛な叫びを上げたのが、スナックや喫茶店など小規模な店舗の経営者たちです。「たばこを吸うお客さんが多く、禁煙になったら、そもそも客が来なくなる」とか「分煙室を作るといっても狭い店内でそんなスペースもお金をかける余裕もない」といった意見のほか、「海外では路上でたばこを吸えることが多いと思うが、日本では条例で街なかでたばこが吸えないことが多い」といった声も聞かれました。

このため、業界団体では飲食店の建物内では原則、禁煙とする案を見直すよう政府に要望していくことを決めたのです。

代案として、喫煙、禁煙、分煙はお店の判断に任せ、店の入り口にステッカーなどを貼って、お客さんに店を選んでもらうようにすればよいと訴えています。

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先行導入の神奈川県では

小規模店舗の経営への影響を懸念して、禁煙に反対する人たちが取り上げるのが、全国の都道府県で初めて2010年に受動喫煙防止条例を設けた神奈川県です。

条例は、一定以上の規模の飲食店などには、禁煙か分煙を義務づけていて、違反した場合は、店の管理者、禁煙の場所でたばこを吸った人に一定金額の支払いを科す罰則が設けられていますが、小規模な飲食店には罰則はなく努力義務となっています。

反対集会を主催した外食産業の業界団体は、この条例の影響で、廃業に追い込まれた飲食店があると主張し、一律の禁煙に懸念を示しているJT=日本たばこ産業も、個人経営の飲食店で所得金額が大きく落ちていると指摘しています。

神奈川県が定期的に行っている聞き取り調査でも、影響は確認されています。条例が施行した3年後、2013年の調査では、飲食店などサービス業の20%以上が「たばこ客が減った」と答えています。一方で、県の担当者は「条例が施行された当時はリーマンショックなどで景気が大きく落ち込んでいた時期とも重なり、受動喫煙対策がどこまで廃業など店の営業に影響を与えたのか算出することは難しい。最近の調査では客足が減ったという施設は少なくなっていて、徐々に受動喫煙対策が受け入れられるようになってきたのではないか」と話しています。

今回、新宿や新橋の繁華街で喫煙者に話しを聞くと、「お酒を飲みながらたばこを吸えないのでは店には入らない」という声がある一方で、「時代の流れなのでしょうがない…」といった声も聞かれ、飲食業界にどの程度の経済的な影響を与えるのか、見極めるのは難しいようです。

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禁煙、分煙… 対応は

飲食業界でも、大手を中心に受動喫煙の防止策の導入は進んでいますが、禁煙、分煙の対応はさまざまです。

マクドナルドは3年前から、ロイヤルホストは4年前から全席で禁煙にしました。ビアホールを運営しているサッポロライオンは、全国にある約140店舗のうち2割程度の店舗で客席を禁煙にするとともに、喫煙室を導入しています。厚生労働省の「『原則』建物内で禁煙」を先取りする形です。今後、新規出店や改装のタイミングでこうした店舗を増やしていくことにしています。

ガストは喫煙席を設けていて、ガラス製の壁で仕切りを作ったり、上から空気を流したりして、煙が漏れないような対策をしています。全席を禁煙にしているマクドナルドなどは、客だけでなく従業員の健康への配慮のためでもあるとしています。

業界は違いますが、パチンコ業界では、ことしの春闘、労働組合が「従業員の受動喫煙対策」を経営側と話し合うという動きも出てきています。

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どうなる受動喫煙対策

2月9日の自民党の部会では、例外の範囲拡大を求める意見がでた一方で、「海外と比較しても、日本の受動喫煙対策は遅れている」として、原則禁煙の一律の規制の導入に向けて、前向きに議論すべきだという指摘も出されました。 日本医師会などは、そもそも飲食店も建物内では全面的に禁煙にするべきとしていますし、IOC=国際オリンピック委員会は、ロンドン、リオデジャネイロに続いて、2020年の東京オリンピック・パラリンピックでも、「たばこのないオリンピック」を求めています。 厚生労働省は、3月上旬をめどに法案を国会に提出したい考えですが、調整は難航も予想されます。非喫煙者の健康対策をどう徹底するのか。対策をめぐる今後の議論に注目していきたいと思います。

野口恭平
経済部
野口恭平 記者