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“トランポノミクス”で日本経済は?

今月、アメリカ大統領にドナルド・トランプ氏が就任します。去年11月の大統領選以降、金融市場では円安ドル高が進み株価は上昇。東京株式市場では、去年、日経平均株価が年末の終値としては5年連続で前の年の終値を上回りました。さらに年明けの取り引きも、アメリカ経済への期待感などから全面高の展開になり、初取引としては4年ぶりに値上がりしてスタートしました。
トランプ氏の経済政策“トランポノミクス”は今後、日本経済にどのような影響をもたらすのか?そして株価の行方は? マーケットの動向に詳しい2人の専門家の見方から、ことしの日本経済を占います。

トランプ氏の経済政策

アメリカ大統領に就任するトランプ氏は、国益を優先する「アメリカ第一主義」を掲げます。

貿易政策に関しては、TPP=環太平洋パートナーシップ協定についてアメリカの雇用を奪うものだなどとして離脱するとしています。また、メキシコやカナダと結んでいるNAFTA=北米自由貿易協定についても、割安な製品の流入で製造業が打撃を受けているとして国益に合うように内容を見直すため再交渉するなどとしています。

さらに中国に対しては、貿易赤字が膨らんでいることを念頭に、為替を意図的に誘導している「為替操作国」と認定するとしており、アメリカにとって貿易面でのつながりの強い各国に厳しい姿勢を示しています。

経済や財政政策については、経済成長率の目標として4%を掲げ、大規模な減税などを実施することで少なくとも2500万人の新たな雇用を創出するとしています。

一方、不法移民対策としてメキシコとの国境に壁を築き、メキシコ政府に費用を負担させるとし、そのために議会に法案を提出するとしています。また、国内200万人以上の不法移民の強制送還を開始するともしています。

“トランポノミクス”の実現性は?

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こうしたトランプ氏の政策について、野村証券の伊藤高志エクイティ・マーケット・ストラテジストは、政策を進める順番に注目しています。

「トランプ氏の政策は2つに大きく分けられる。まずは不法移民対策や通商問題など、成果をアピールするために早期に着手される政策だ。不法移民対策なら、アメリカに不法に入国して犯罪を犯した者の強制送還。通商問題であれば、NAFTAから離脱するというのは、大統領権限で時限立法的に短期間だけ関税を引き上げるということも可能。法律などの解釈を変えるだとか、命令を出せばできるということを最初に実施するのだろう。一方で効果の発揮までに時間を要する政策としては、法人税や所得税の減税、インフラ投資などが挙げられる。大型減税やインフラ投資などは、法律を変えなくてはならない。予算とセットになるので、アメリカの新年度予算が始まる10月以降でなければ動けない」と話しています。

そのうえで伊藤氏は「就任から100日となる4月29日をすぎると議会などとさまざまな議論が始まるので、今のようなユーフォリア的な(過度に楽観した)相場が続くとは考えないほうがよい。保護主義的な動きが前面に立つことになれば、市場はネガティブに反応するし、投資など企業の行動にも影響が出てくる」と慎重な見方を示しています。

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一方、松井証券の窪田朋一郎シニアマーケットアナリストは「経済政策を前面に出すのであれば市場も好感する。日本の投資家は慎重な見方が多いが、外国人投資家は、法人減税とか財政出動、それに金融機関に対する規制の緩和への期待が非常に強い。かなり期待先行なので、貿易に対する関税の引き上げなどが前面に出てくる局面になると相場は調整局面を迎える可能性が高い。ただ、警戒されている保護主義的な政策について、今のところ市場では、性急に実現に動くことはないのではないかという見方が多い」と話しています。

日本経済への影響は

日本経済には、どのような影響が考えられるのでしょうか?

伊藤氏は「トランプ氏の政策によって、アメリカで個人消費が伸びれば、日本の産業でもアメリカ向けに原材料や資源を輸出する商社や自動車、それに運輸関連などにメリットが出そうだ。ただ、アメリカが保護主義的な政策を進めて関税障壁を作り、それが日本の得意分野に関わる場合は、直接的な影響を受けることになる。可能性は低いと見ているが、世界的にモノの動きが止まってしまえば世界同時不況になる可能性もある」と話しています。

窪田氏は「日本とアメリカの金利差を考えると、円安ドル高の基調は続く。このため企業の業績は、輸出関連産業は円安で増益の見通し。内需関連は高額品が売れる環境でもないし、円安に伴って輸入価格が上昇する面もあり、若干マイナスと見込んでいる」と話しています。

いちばんのリスクはツイッター!?

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トランポノミクスに対する見方で2人に共通しているのは、期待が外れたときのリスクです。

窪田氏は「トランプ氏に対する期待が過剰だと投資家が気付いたとき、これまで続いてきた円安株高が逆回転をはじめ、市場が大きくマイナスにふれる可能性がある。その意味ではトランプ氏のツイッターがいちばんのリスク。法人減税とかインフラ投資とか、市場が期待していることと違うツイートがなされると『風向きが変わった』と受け止められて相場の調整局面になりやすい」と話しています。

また、伊藤氏も「トランプ氏の政策によって経済が立ち直っているかどうか、来年あたりになるとチェックが始まる。アメリカの産業があまり強くなっていないということになると大問題になる。以前、レーガン政権が規制緩和などを進めたが、上手くいかなくて、為替相場で強すぎるドルを安くするために1985年にプラザ合意が行われた。今の円安ドル高が行きすぎてしまって、なおかつトランプ氏の経済政策の成果が出ていないという場合は、アメリカとほかの先進国との間で突っ込んだ議論が起きかねない」と話しています。

気になる「サウジアラムコ上場」と「BREXIT」

トランポノミクスのほかに注目すべきことは何でしょうか。

窪田氏は「2018年までにあると言われている、サウジアラビアの国営石油会社、サウジアラムコの上場。先日のOPECでも予想に反して原油の減産が決まったが、サウジアラビアとしては時価総額が200兆円とも言われる規模のサウジアラムコを市場で少しでも高く売りたいので、そのためには原油価格が値上がりしなくてはならない。サウジアラムコの上場を目的とした原油価格の変動というのが、株式市場に対してインパクトが大きい」と注目しています。

伊藤氏は「ヨーロッパが火薬庫だ。イギリスのEU離脱は交渉も始まっていないし、上手くいくかも分からない。いったんイギリスを切り離して、単独でオペレーションすることになると、知恵を絞って激変緩和措置をとろうするとは思うが、何かボタンの掛け違いが起きると怖い。実際にイギリスがEU離脱を決断した時に、金融センターがパリに移るかもしれないとして、不動産投資信託に売りが殺到した。ヨーロッパでは、このほかにもフランスやドイツ、オランダで重要な選挙が予定されている。金融リスクが高まる時にはほぼ100%円高になる」と話しています。

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日本の景気は?

ことしの日本の景気はどうなるのか?

伊藤氏は「企業の在庫の動きを示す指標を見る限り、近い将来出荷が増えてモノが動き始め、前向きに在庫を積み増すという局面になっている。また2次補正予算の執行がこれから本格化してくる。意外に物価や雇用に対する影響はこれまでよりも多く出やすい状況にあるのではないかと思う。賃金が上昇したり、消費活動が活発になったりするような、いわゆる普通の国の好循環が生まれてもおかしくない状況が期待できる」と話しています。

これに対して窪田氏は「原油価格が上がって円安が進むことが必ずしも個人消費にとってよいとは言えない。賃金の上昇に比べて物価の上昇のほうが大きいのでマイナスだ。現時点で言うと、賃金の伸びは厳しい。雇用の統計は改善しているが、全体として雇用者報酬が伸びているかというと、そこまでいっていない。高齢の方の引退が大きくて、相対的に低賃金の方が増えている。企業にとっては、グローバル化の影響で相対的に高い賃金を増やすというインセンティブにはなりづらい。ことしの景気は去年と比べて、それほど変わらないのではないか」と慎重な見方です。

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トランプ氏とソフトバンク孫社長

求められる“強じんな”経済力

去年11月のアメリカ大統領選挙まで、市場ではトランプ氏が勝利すれば、円高株安が急速に進むという見方も多くありました。しかし、ふたを開けてみれば、年末にかけて日米ともに株価は年初来高値を更新。円相場は1年前の水準まで円安が進みました。

今回のトランプ相場は「期待先行」の面もあります。日本経済は、人口の減少や財政悪化など構造的な問題を抱える中で低成長が続き、デフレから完全に抜け出すまでには至っていません。イギリスのEU離脱やアメリカの大統領選挙など海外の要因に翻弄され続けています。外からの衝撃に対して“強じんな”経済力をつけなければ、世界経済の激変によって、その「体力」はどんどん奪われることになりかねません。