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“いやらしくない!”~お金の教育~

唐突ですが質問です。

『環境企業に支援をするエコNPO。そこに10万円を投資すれば毎週500円の配当金がもらえます。あなたは投資しますか?』

この問いは金融についての教育を取り入れている宮城県の高校で、専門家が高校生に出した質問です。お金にまつわる金融の教育を正面から取り入れる学校は少ないのが実情です。しかし、超低金利が続き、資金を増やすことが難しくなり、それだけにうまい話を持ちかけて人をだますような手合いがあとを絶ちません。

「お金の話は“いやらしい”ことではない」。高校の先生の言葉です。生活防衛にもつながるであろう金融教育の現場を取材しました。
(経済部峯田知幸)

金融への理解とは?

冒頭の質問についての専門家の答えを先にお伝えします。

『投資してはいけない』でした。

わずか500円の配当であっても、毎週の配当となりますと、年間の利回りが26%に達します。『実際にあった詐欺事件の手口です。日本は今、低金利環境にあり、年間の利率が26%はありえない』(公認会計士・税理士山田真哉氏)

これは、先月、仙台市の宮城県立の宮城広瀬高校で行われた高校生対象の講演会での一幕でした。高校生が世の中に出て、この誘惑を断るには、日本は超低金利の環境にあることを知っていなければなりません。そして、年間の利率を計算し、ほかの金融商品と比較する力も必要です。

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“人生を俯瞰する”金融教育

私が訪れた宮城広瀬高校は杜の都・仙台を流れる広瀬川のほとりに立つ比較的新しい高校です。2年前、日銀や県などが作る金融広報委員会から、金融教育の在り方を研究する「研究校」に委嘱され、「公民科」「家庭科」「商業科」の3科目で金融教育を取り入れてきました。

この日はその成果を披露する公開授業がありました。教科書がない金融教育。先生たちは、他教科と連携しながら物事を多角的に見る力を身につけさせる工夫をしていました。

「家庭科」の教室ではその授業のユニークさに驚きました。生徒たちが4人1組のグループを作ってすごろくをしていたのです。そのすごろくの一コマ一コマが現実的です。

「住宅を3000万円で購入、現金一括払いかローン利用か選択する」「もうかると持ちかけられた未公開株を購入したが詐欺で2000万円の被害」などなど。

就職してから老後までに起こりうるさまざまな出来事をすごろくを通じて学ぶ仕組みです。人生を俯瞰(ふかん)し、生活設計を意識してもらおうというものでした。「結婚する」というコマに進んだ女子生徒が「結婚したくないんだけど」と声を出し、先生が苦笑いする場面もありました。

生徒の1人は「老後も考えると、お金がすごくかかることがわかります。ただ、私は旅行が好きなので、マイホームは建てず、趣味のために貯蓄しておきたい」と思い描くお金の使い方を話してくれました。

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一方、「公民科」の授業で先生は金融の重要性を教えていました。

「貯蓄だけではお金は世の中に出回らず、消費は低迷し、会社の業績は落ち込む。そうなると給料も減って、消費はさらに減り悪循環になる」

貯蓄と融資、投資がうまく回ってこそ、経済に好循環が起こると伝えます。

「商業科」では、人生でどんな借金をするかプリントに書かせたり、100万円借りたいと申し込みを受けた銀行員の立場になって実際にお金を貸すために何が必要か生徒どうしが話し合ったりしていました。

金融教育のカギは…

金融教育を中心となって進めてきた佐藤静江教諭は、2つのことに重きを置いたといいます。

1つ目は、世の中の変化に敏感に対応する力を養う。
2つ目は、多角的な視野を持つ力を養う。

佐藤教諭が事例としてあげたのが、6月のイギリスのEU離脱問題です。経済ニュースを授業に積極的に取り入れ、このとき、急激に円高が進んだことを受けて、円高や円安の仕組みを授業で詳しく教えたと言います。通常なら、数分で終わらせることもある項目だということですが、1時間かけてじっくり教えたそうです。

成果は出始めていると佐藤教諭は言います。

「消費増税に関するニュースを見た生徒が、自分なりに税の歴史や仕組みを調べ、将来のために増税が必要なのかどうかを考えてきた生徒がいた。世の中のことを知り、自分の生活に置き換えて考えることのおもしろさを実感しているようだ」(佐藤教諭)

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“お金の話はいやらしくない”

金融教育を支援している日銀情報サービス局の鶴海誠一局長はこう語ります。

「日本では個人が保有する金融資産が約1700兆円と言われますが、その半分が現金や預金にとどまっています。「貯蓄から投資へ」と何度促しても、貯蓄が選好されがちです。金融教育が普及すれば、そうした流れが変化する可能性があります。しかし、そうした効果よりも、まずは生徒それぞれが人生の中で、いつどれだけのお金が必要かを理解し、悪徳商法などにだまされないだけでも意義は大きいと考えています」

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私の家族でも金融商品といえば預金のことしか思い浮かばない人がいます。リスクをとって別の金融商品に一部預けていれば、お金が少しでも増えていたのではないかと思ったりしますし、何より知っていることと知らないことの厳然たる差を感じたりします。

宮城広瀬高校の佐藤教諭の言葉が心に残りました。

「一生、お金と離れて暮らすことは無理です。お金の話は決していやらしい話ではないのです」

高校教育の現場に生々しいお金の話を持ち込むことへの先生たちの微妙な抵抗感、それを生徒の将来のために振り切ったというように私には聞こえました。

「豊かな生活を送りたい」という誰もが抱く思いをかなえるうえで、切っても切れないお金の話。金融教育はもっと取り入れられてよいのではないかと考えています。

峯田知幸
経済部
峯田知幸 記者