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“自動運転革命” ~DeNAの挑戦~

“21世紀の産業革命”とも呼ばれる自動運転。2回目は、自動運転を社会課題の解決につながる新たなサービスに生かそうという世界各国での最新の動きや日本でのディー・エヌ・エーの挑戦についてお伝えします。
(経済部 野口恭平記者)

世界で活発化 自動運転の社会実験

クルマづくりや自動車産業にとどまらず、私たちの社会、そしてライフスタイルをも大きく変える可能性を秘めている“自動運転革命”。自動車メーカーにIT企業も加わって技術開発が加速するかたわら、世界では自動運転を活用した新たなサービスの開発も進んでいます。

シンガポールでは、自動運転のタクシーを公道で走らせる実験が始まりました。スマートフォンのアプリでタクシーを呼び、決められた6キロのコース内で乗り降りできます。アメリカでは、自動運転のトラックを開発。長距離運転のドライバーの負担を減らすことができると期待されています。

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そして、オランダ。公道で自動運転の小型バスを走らせる実験が行われています。将来的には、この自動運転バスが街なかを何台も走り、利用者が自由に乗り降りできるような交通システムを作り上げる構想です。

渋滞が課題となっている都市部に導入すれば、マイカーを持たなくてもよくなり、交通量を減らすことができると考えています。地元政府の担当者は私たちの取材に対し「一人一人が車を所有するのではなく、必要に応じて利用するというシステムで、長期的にはマイカーに取って代わり、社会を大きく変えるだろう」と話していました。

自動運転 DeNAの挑戦

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日本でも自動運転を活用した新たなサービスを展開しようという動きが出ています。その1つが大手IT企業・ディー・エヌ・エーです。この会社では今、タクシー、バス、物流の3分野でサービスを検討しています。

このうちタクシーは、自動運転技術を持つ東京のベンチャー企業と合弁会社をつくり、運転手のいない無人タクシーを2020年に実用化しようとしていて、ことし2~3月には神奈川県藤沢市の特定の道路で住民を乗せた実証実験を行いました。

そして、これから必ずニーズが高まってくるとみているのが、高齢化が進む地方です。実際、この無人タクシーに期待を寄せている町があります。山口県東南部、瀬戸内海に浮かぶ周防大島町です。みかんの島として知られる周防大島町は人口が約1万7000。このうち65歳以上のお年寄りの割合=高齢化率は51.84%(平成28年4月)と半数を超えます。

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島内での主な交通手段はバスですが、路線によって本数は1時間に1本程度しかなく、車がなければ買い物などにも事欠く、不便な環境です。私たちはディー・エヌ・エーの担当者が現地を訪問する際に取材で同行しました。住民からのヒアリングでは「タクシーの運転手も90歳近い人がいた」とか、「周りには高齢で運転免許を返納した人がいるが、そうなると移動手段がなくなってしまう・・・」など、切実な声が相次ぎました。

実際に取材した山根恵一さん(82歳)はおよそ7キロまで離れた病院に行くため、妻のケイコさん(77歳)に送迎してもらっていました。ただ、いつまで運転できるか不安もあり、無人タクシーが実現すれば助かると話していました。

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その一方で、この島で無人タクシーを走らせるうえでの課題も浮き彫りになりました。島内には、道路上の白線が消えかかった場所やガードレールのない狭い場所がいくつもありました。
自動運転車の場合、人の「目」にあたるカメラなど各種センサーで路上の白線や側方のガードレールや縁石などを検知して的確なルートを導き出して走行するだけに、周防大島町の道路環境は無人運転にとって厳しいものだったのです。

ディー・エヌ・エーの中島宏執行役員は「こういうところで走らせることができるよう自動運転の技術レベルが上がってこないと、日本中で困っている方々を救えないので、これはチャレンジしなければならない」と話していました。

一筋縄ではいかない実用化

政府は、東京オリンピック・パラリンピックが開催される2020年をターゲットに自動運転を活用したサービスの実用化をめざしています。ただ、課題が山積しているのが実態です。

まず、技術面です。車を運転していて「ヒヤッ」とした経験のある方、少なくないと思いますが、市街地では人や自転車、そして対向車などが突然、飛び出してくるなど予期せぬ事態が起き得ます。そうした緊急時に安全を確保できる技術開発は途上です。

また、運転手がいない完全自動運転=無人運転に対応した法制度など社会的なルールづくりも大きな課題です。例えば、こうした車が事故を起こした場合、責任の所在はどうなるのか?また、保険や運転免許の制度はどうあるべきなのか?考えるべきテーマは挙げればキリがないほどです。

ただ、自動運転車の実用化に向けた動きは世界的な潮流となっていて、この技術革新を社会課題の解決など私たちの暮らしの向上にいかに生かしていくか、真剣に考えなければならない段階に来ています。

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技術で勝って、ビジネスでも勝てるか

今回の取材を通じて私の念頭に常にあったのが、電機業界を担当していた時、よく耳にした「技術で勝って、ビジネスで負けた」という言葉です。

テレビや液晶、半導体など日本の電機産業はかつて世界を席巻(せっけん)し、「MADE IN JAPAN」の象徴でもありました。 最近では携帯電話が典型で、スマートフォンの登場を機に、日本メーカーの端末は一気にシェアを奪われ、iOSやアンドロイドというOSを握る企業が携帯ビジネスの主導権を握るなど、勢力図は一変しました。

自動車産業における自動運転は電機産業で起きたパラダイムシフトを引き起こすインパクトを秘めています。それだけに、同じ轍を踏むことがないよう自動運転の国家的な戦略が今、求められていると考えます。

野口恭平
経済部
野口 恭平 記者