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「カローラ」の半世紀

消費者の嗜好がめまぐるしく変化する今の時代、売れ続ける商品を作るのは容易ではありません。トヨタ自動車の主力車種「カローラ」は、発売からことしで50年を迎えました。日本のモータリゼーションをけん引し、「世界で最も売れた車」として知られる“大衆車”は、どのように生まれ、生き残ってきたのか。歴代の開発者たちへの取材を通じ、カローラの半世紀をたどりながら、人々に長く愛されるヒット商品を生み出すヒントを探ります。

“80点主義+α”

英語で「花の冠」を意味するカローラ。発売されたのは、日本中がビートルズの来日に熱狂し、高度経済成長で沸いた昭和41年です。前年には名神高速道路が全線開通。本格的なモータリゼーションに突入し、手ごろな価格で使いやすい大衆車のニーズが高まっていました。

初代カローラの開発責任者・長谷川龍雄氏が、開発にあたって掲げたコンセプトは、「80点主義+α」です。あえて100点を目指さず、 車のあらゆる性能で合格点を取りながら、一部の性能で“+α”の付加価値をつけるというものです。

例えば、エンジンの排気量。日産自動車が先駆けて発売した「サニー」などと比べて100CC増やし、1100CCにしました。ねらいは、ゆとりを持たせた車作り。長谷川氏の下で開発を手がけた佐々木紫郎さん(現トヨタ自動車顧問)は「アクセルを思いっきり踏み込んで最高速度を出すのと、余裕を持ちながら出るのでは全然感覚が違う」と話します。

発売当時の価格は43万2000円。大卒初任給がおよそ3万円の時代ですから、少し高く感じるかもしれませんが、当時、最も売れていた乗用車より30万円以上も安い価格でした。

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変わり続けた“大衆車”

「大衆車とは何か?」

その問いかけに佐々木顧問は、トヨタ自動車販売の初代社長で“販売の神様”と呼ばれた神谷正太郎氏の言葉を引用し、「大衆車とは、1番売れた車が大衆車である」と答えました。言葉どおり、カローラは発売から3年後の昭和44年に国内の新車販売のトップに立ちます。求めやすい価格とバランスの取れた性能、そして、“+αのゆとり”が消費者の心をつかみました。

その後、カローラは時代の要請に応じて変わり続けます。経済成長とともに消費者が高級感のある車を求めるようになると、室内空間を広くして乗り心地をよくしたり、若者がスポーツカーを求めれば、高性能エンジンを積んで走行性能を重視したりしました。佐々木顧問は「カローラのDNAはスポーツ性と余裕だ」としながらも、「DNAにこだわる必要はない。“変えないことは悪いこと”というトヨタの理念があるのだから」と話します。

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消費者のニーズに応じて、自由自在に姿を変えるー。それこそが、大衆車としてあり続けるためにカローラが歩んだ道でした。国内では33年間連続で乗用車ランキングのトップであり続け、大衆車の地位を不動のものに。現在では世界154か国で販売し、ブラジルでは高級車、アメリカでは日常車といったように、その国の使われ方に合わせた進化を遂げています。世界での累計販売台数は4300万台を超え、ギネス世界記録では「世界で最も売れた車」に認定されるなど、名実ともに“ベストセラーカー”となりました。

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トップからの陥落

時代の要請や地域のニーズで生まれ変わってきたカローラ。しかし、国内では平成16年にスズキの「ワゴンR」にトップの座を譲って以降、新車販売ランキングの上位から遠ざかっています。価格が安く使い勝手のよい軽自動車や低燃費のハイブリッド車など、それぞれの強みに特化した車が現れ、カローラの存在を脅かすようになりました。

現行モデルの開発責任者を務めた安井慎一常務が、「消費者の好みが十人十色になり、カローラで日本市場を引っ張るのは厳しいものもある」と認めるように、“大衆車”の定義が非常にあいまいな時代になったのです。依然として、世界では年間100万台以上を販売する主力車種ですが、国内では役割を終えたのではないかという指摘もあります。

それに対し、安井常務は「現在のカローラの使命は、新しい技術を大衆に広めることだ」と答えます。去年4月から搭載された自動ブレーキシステムは、トヨタブランドの車では初めての導入でした。最新技術という“+α”を、手の届きやすい価格で提供する。50年前に生まれたコンセプトは、形を変えながら今もなお生き続けています。

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50年先を見据えて

8月5日、東京都内でカローラの生誕50周年を祝う催しが開かれ、歴代の開発責任者たちが集まりました。面々が「よく50年を迎えることができた」と口をそろえるなか、次のモデルを担当する小西良樹チーフエンジニアは「先輩たちがつないだ“開発のタスキ”を受け取り、50年の重みを感じる」と述べました。

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これまでの半世紀、カローラは時代を映す鏡のように消費者のニーズに応じて姿形を変え、人々に愛され続けてきました。しかし今、国内の市場は人口減少や若者のクルマ離れなどによって販売が低迷し、これまでになく厳しい時代を迎えています。小西チーフエンジニアは「乗ってわくわくするような、デザインもよくて走りも楽しい車を世の中の人に等しく届けたい」と話し、次の50年をリードする車作りに意欲を見せました。

人々の心に響く“+α”を作り出すことができるのか、注目したいと思います。

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宮本雄太郎
報道局経済部
宮本 雄太郎 記者
平成22年NHK入局
札幌局をへて 現在 自動車業界を担当