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“おじいちゃん企業” 世界へ

社長、84歳。常務、75歳。
社員はこの2人だけというユニークな会社が、ことし「ビジネス界のアカデミー賞」とも呼ばれるアメリカの賞を受賞しました。平均年齢79.5歳の小さな会社が成し遂げた快挙に、2人の地元、兵庫県姫路市も沸き立ちました。受賞のきっかけとなったのは「もったいない」の精神から生まれた、災害にも役立つアイデア製品。「いつまでも現役で頑張りたい」 そんな明るく元気な2人が立ち上げたエコビジネスを紹介します。

“姫路のおじいちゃん”の快挙

省エネ製品の開発・販売を手がける、姫路市の「日本エナジー研究所」。社員2人と事務員だけの零細企業です。社長の堀田繁美さんが84歳。常務の廣澤勝さんが75歳。平均年齢79.5歳の2人が役員を務めています。

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この小さな会社が、ことし5月、ビジネス界のアカデミー賞とも呼ばれるアメリカの「スティービー賞」のうち、「アジア・パシフィック賞」に選ばれました。この部門では、これまでに衣料品チェーンのユニクロを展開するフ ァーストリテイリングやソニーも選ばれていて、日本エナジー研究所は、ことし、600社以上の応募の中から栄冠に輝きました。

受賞のきっかけになったのは、蛍光灯の光をエネルギーに変えて点灯する「発電するランプ」。蛍光灯の光は室内を照らせばそれで十分役割を果たしていますが、堀田さんはただ照らすだけでは「もったいない」という思いから、「光のリサイクル」を目指したのです。堀田さんと廣澤さんの開発期間は3年。このたび世に出た発電するランプ「エコ・ファイブ」は、余った光のエネルギーを再び光に変えるユニークなアイデアとして高く評価されました。

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戦前生まれの堀田さん、自身の「もったいない精神」が根底にあると話しています。

私は、小さい時分から母親が常に『もったいない、もったいない』ということを言っておりましてね、もったいないということを徹底的にたたき込まれたんですね。今、『もったいない』という日本語が世界的に通用すると聞いていますが、この言葉が私の発想の原点でございます。とにかく文明が発達すればするほど、照明の光はあふれるばかりでございましてね、東京なんかに行ったらびっくりするんですね。この光をなんとか再生可能エネルギーに転用できないかというのが発想の原点であったんだろうと思います

快挙は成功と挫折から

もともと進学予備校の事務職員で技術とは無縁だった社長の堀田さん。製鉄会社出身の技術者だった常務の廣澤さん。今から30年前、廣澤さんが製鉄会社を辞めて就職していた省エネ製品の会社に堀田さんが転職してきたのが、2人の出会いでした。

その5年後、2人で独立。省エネ製品を販売する会社を立ち上げました。当時、2人が開発したのは、2本で一組の蛍光灯を1本に減らしても元の明るさを保つというエコ製品。仕組みは簡単です。蛍光灯の周りにアルミの反射板を取りつけて、光を鏡のように反射させるのです。これで蛍光灯1本で2本分の明るさを確保できるのです。

この製品は画期的な節電技術として反響を呼び、光熱費を抑えたい多くの自治体や企業に導入されました。皆さんの職場でも使われているかもしれません。最盛期の売り上げは年間3億円。たった2人の企業にとっては、まさにメガヒットでした。

しかし、ここ数年は売り上げが激減。最盛期の10分の1に落ちています。原因はLEDの普及。消費電力が少なく長持ちするとされるLEDに切り替える顧客が急速に増え、堀田さんたちの製品は存在が薄れていきました。

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急成長と急転落。ここから2人の必死の研究開発が始まりました。「蛍光灯が1本」でも「LED」でも、室内を照らす光が「もったいない」のは同じ。今こそ、このもったいない光をエネルギーに変えるべきだ。そんな思いから2人は、ホームセンターで調達したさまざまな部品を組み合わせ、光から光を効率よく取り出すエコ技術で起死回生を図りました。開発期間3年でたどり着いたのが、照明の光からエネルギーを取り出す製品「エコ・ファイブ」だったのです。

“光をリサイクル”その技術とは

この製品の特徴は、意外にシンプルです。縦5センチ、横9.5センチ、高さ3センチの樹脂製の土台に、太陽光パネルと蓄電池、LEDの電球が取り付けられています。この製品を直接、蛍光灯に巻きつけるようにして取り付けます。

蛍光灯の光を太陽光パネルで受け、そのエネルギーを蓄電池に蓄えます。蛍光灯が消えて暗くなると、自動的にLEDの電球が点灯します。およそ10時間連続で点灯しますが、ともる明かりは周りをほのかに照らし出す程度。蛍光灯の代用品にはなりませんが、夜間に点灯する非常灯や、災害などで停電した際に点灯する明かりとして活用できます。

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堀田さんたち2人は試作品を手に取引先に売り込みを図り、飛び込み営業も行いました。ことし1月に試験販売を開始。価格は1つ3000円です。20個購入した地元・姫路市の工作機械の販売会社の経営者は「簡単に取り付けることができて、夜間にはほのかな光を放って、非常灯などに使えるので役立っている」と話していました。

一晩中つけていても電気代はかかりませんし、停電が起きても真っ暗にはならないという安心感があるそうです。

夢は、省エネから創エネへ

この製品、最近は大手商社や大手メーカーから堀田さんたちのもとに引き合いが寄せられています。製品そのものを全国に販売する代理店をさせてほしいという申し出のほか、「光のリサイクル」の技術を応用した新たな製品開発の提案を行ってきた会社もあります。

堀田さんたち2人は、今の製品に満足しているわけではありません。この技術を使って、もっと明るく、長く点灯する照明器具や、災害時に携帯電話の充電に利用できるような製品の開発に取り組んでいこうとしています。

これまで「エネルギーをいかに節約するか」に力を注いできた2人。これからは「エネルギーをいかに作るか」=”創エネ”に力を入れていきたいと堀田さんは話しています。

私は次々にまだアイデアを持っておりましてね、それをやっていきたいと思うんですけど。「エコ・ファイブ」そのものはですね、災害時に皆さんに役立っていただきたい、その思いでこれを開発した訳ですけれど、ゆくゆくは「エコ・ファイブ」の原理を応用してですね、もっともっと創エネをやりたい、エネルギーを作る方面に力を入れたい、そのように思っているんです。死ぬまで現役で、ひとつ、頑張りたいと思っています

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将来は海外にも打って出て、災害時に役に立つ製品を世界各地に普及させたいと考えている堀田さんと廣澤さん。見果てぬ夢を追いかけ、「死ぬまで現役」と熱く語ってくださる2人に、取材を通じて、こうした”おじいちゃんパワー”が、日本のビジネスを変えるかもしれないと感じました。

「とにかく時間を無駄にするのは”もったいない”」というエネルギッシュな2人、もうすでに次のアイデアは湧きだしているということで、これからの新展開がますます楽しみです。

林秀雄
神戸放送局
林 秀雄 記者
平成3年 NHK入局