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スポーツカーブーム再び?
オヤジに熱視線

いま「スポーツカー」の市場が急激に伸びています。エコカーやミニバンの普及で影が薄くなっていたスポーツカーですが、販売台数は5年前の7倍に増加。メーカーは相次いで新型モデルを投入し、さらなる市場の拡大も予想されています。低迷する国内の自動車市場でひとり気を吐くスポーツカー。再びやってきたブームを支えているのは、“子育てを終えたオヤジたち”でした。
(経済部 宮本雄太郎)

生まれ変わった「ハチロク」

幾多の名車や名だたるレーサーが駆け抜けた富士スピードウェイ。今月5日、サーキットコースには深い霧が立ち込め、辺りは静まりかえっていました。

「ブォーン」。突如、静寂が低いエンジン音によって打ち破られたそのとき、まるで霧を切り裂くように私の前に1台の車が現れました。トヨタ自動車が4年前に発売したスポーツカー「86」の改良版です。エンジンの吸気・排気の性能を高めて馬力を上げ、ボディーの構造を改良し空気抵抗を減らしました。

さらに、足回りを強化して乗り心地を改善したということで、開発責任者の多田哲哉チーフエンジニアは「走りの『深化』にとことんこだわった」と胸を張ります。

今回のモデルチェンジは、車の設計やデザインを大幅に見直す「フルモデルチェンジ」と違い、性能の改良などにとどまる「マイナーチェンジ」に位置づけられています。しかし、このタイミングでの新モデルの投入は単なる改良にとどまらないトヨタのねらいがあったのです。

再びブームの火つけ役に?

民間シンクタンクの「三菱総合研究所」によると、国内のスポーツカー市場は2011年を底に増加に転じています。去年1年間の販売台数は4万2520台と、5年前の7倍以上に急増。新車販売全体の504万台からみると、決して大きな規模とは言えませんが、低迷が続く国内市場の中にあって注目を集める存在となっています。

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人気復活のきっかけになったのが「86」でした。国内の自動車市場は、ハイブリッド車やミニバンなど実用性にこだわった車が中心で、燃費が悪く荷物が乗らないスポーツカーの販売は縮小する一方でした。若者の“クルマ離れ”も歯止めがかからず、かつてのブームは過去のものとなっていました。

こうしたなかトヨタは、“走る楽しさ”をアピールし、往年の人気スポーツカーの愛称「ハチロク」の名を復活させる形で4年前に「86」を発売。すると低重心のデザインや200万円台に抑えた価格設定も受けて、スポーツカーとしては異例の年間2万台を超えるヒットとなりました。

その後、スバル「WRX」、ホンダ「S660」、そしてマツダ「ロードスター」といったスポーツカーが相次いで投入され、消費者の選択肢も広がりました。

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いわば火つけ役となった「86」。今回のモデルチェンジは、その流れをさらに加速させるねらいがあります。多田チーフエンジニアは「新型モデルが出ることで、乗り換えによって前のモデルが中古車市場に流れる。すると、若者たちにより安価な86が届き、スポーツカー市場のすそ野をさらに広げることができる」と話します。

走りにこだわるオヤジたち

想定を超えるヒットとなった「86」ですが、購入者の年齢層をみると40代以上が全体の6割を超え、ターゲットとしていた若者にあまり浸透していません。

三菱総合研究所の杉浦孝明主席研究員は、「最近はアクティブシニアと呼ばれる50代以上の男性が、自分のライフスタイルを楽しむためにスポーツカーを購入している」と分析しています。往年のスポーツカーブームをけん引した、かつての若者たちが子育てを終え、仕事も落ち着き、夫婦や友人どうしで楽しむために再びスポーツカーに乗り始めたー。

スポーツカー市場を盛り上げていたのは、若いころにスポーツカーに憧れた“オヤジたち”だったのです。

この世代を狙ったメーカーの動きも活発になっています。今月、富士重工業はワゴンタイプの乗用車「レヴォーグ」に、スポーツカーの性能を兼ね備えた新しいモデルを発売しました。

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発表会見でイメージキャラクターとして招かれたのは、俳優の高橋克典さん(51)。「われわれは仕事に遊びにと使う目的と場所に多面性がある。この車はすべてがパッケージされていて非常にちょうどいい」と話すように、質感や乗り心地だけでなく、走りの性能も追求したいオヤジたちがターゲットです。

富士重工業によると、セダンやミニバンからスポーツカーに乗り換える顧客が、全体の半数以上を占めているということで、子育てを終えたオヤジたちに“ミニバン卒業車”をアピールする構えです。メーカーにとって、スポーツカーの要素は欠かせないものになってきています。

さらにこの夏には、日産「GT-R」、ホンダ「NSX」といった高級スポーツカーの新モデルも相次いで発売される予定で、メーカー各社がオヤジたちに注ぐ熱い視線は、ますます強くなっていきそうです。

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ブームから文化に

今後のスポーツカー市場の規模について、三菱総合研究所の杉浦主席研究員は「5年後には現在の2倍以上、年間10万台くらいまで伸びるのではないか」と予測します。国内市場は人口減少やクルマ離れで年々減少が見込まれ、なかなか先が見通せないなかでいわば一筋の光明ともいえます。

トヨタが今回、中古車市場の拡大まで狙ってモデルチェンジを行うのは、「無類のクルマ好き」たちを今から取り込み、将来の成長につなげたいねらいがあるのです。トヨタの嵯峨宏英専務は「スポーツカーを文化として定着させたい」と話しました。

一時的なブームではなく、若者からオヤジまで憧れる車を作り自動車のファンを広げる。そして培った技術や文化を自動車産業全体に還元する。その代表がスポーツカーだといいます。低迷する国内市場を活性化させる起爆剤となるのか。再びアクセルを踏み始めたスポーツカーから、目が離せなくなりそうです。

宮本雄太郎
経済部
宮本 雄太郎 記者