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EU離脱? どうなる日本企業

EU=ヨーロッパ連合からの離脱の賛否を問うイギリスの国民投票は6月23日。1か月をきりました。イギリスでは、離脱は経済的に大打撃となると主張する「残留派」と、移民問題などの解消を求める「離脱派」の間で、世論を二分する激しい論戦が繰り広げられています。
今やイギリスは、日本にとってアメリカに次いで2番目の対外投資先で、中国をも上回ります。 イギリスのEU離脱=Brexit(イギリスを意味するBritainと出口を意味するexitの造語)は、国際展開する日本企業にどんな影響を及ぼすのでしょうか。
(ロンドン支局・下村直人 経済部・伊賀亮人 山田奈々)

英国は第2の投資先

イギリスには、多くの日本企業がヨーロッパのビジネス拠点として進出しています。外務省がまとめている海外在留邦人数調査統計によりますと、2014年10月の時点でイギリスに拠点を置く日系企業は1084社で、国別でみると11番目、ヨーロッパではドイツに次いで2番目に多くなっています。

また、財務省と日銀によりますと、2014年末時点の日本からイギリスへの対外直接投資の残高は9兆2626億円で、アメリカ、中国、オランダに次ぐ4番目となっています。業種別でみますと、金融・保険業による投資が全体の3分の1を占めていますが、最近では高速鉄道や原子力発電などインフラ関連の投資も増えています。

この結果、去年(2015年)1年間に限れば、対外投資額は2兆1351億円で、前の年(8121億円)の2.6倍です。中国を上回り、日本にとってイギリスはアメリカに次ぐ2番目の投資先なのです。

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Brexitの影響

イギリスがEUから離脱した場合、日本企業にもさまざまな影響が出ると指摘されています。JETRO=日本貿易振興機構によりますと、影響は大きく分けてビジネス環境と関税の2つです。

<ビジネス環境>

多くの日本企業は、ヨーロッパ全体のビジネスを統括する部署をイギリスに置いています。離脱によってEUのルールに基づいたビジネスの制度や規制が変わる可能性があります。さらに現在、EU域内ではビザを取得しなくても行き来ができ、移住も原則として自由ですが、イギリスが離脱した場合は手続きが増える可能性があります。

このため、ビジネスの利便性や雇用の面からイギリス以外の国にヨーロッパの拠点を移転するなど見直しを迫られるケースも出てくるのではないかとJETROではみています。

<関税>

日本のメーカーの中にはイギリスに生産拠点を置き、EU各国に製品を輸出するという体制をとっているところがあります。EU域内の貿易は現在は関税がかかっていませんが、イギリスがEUから離脱した場合、域内の国との貿易に関税がかかる可能性もあります。

このうち、日本の大手自動車メーカーはイギリスに生産拠点を持っていて、現地の業界団体のまとめでは、去年(2015年)、イギリス国内で生産された158万台のうち半数近くを日産自動車トヨタ自動車ホンダの3社が占めています。これらの自動車の多くはEU各国に向けて輸出されているということで、仮に離脱によって関税がかかるようになれば、販売への影響も予想されます。

強い危機感の日立製作所

イギリスがEUから離脱することにとりわけ強い反対の姿勢を示しているのは大手電機メーカーの日立製作所です。今、イギリスでインフラ関連にあたる鉄道事業を強化しています。日立はこれまでにイギリス政府からロンドンとスコットランドなどを結ぶ高速鉄道の車両合わせて866両と27年間の保守点検事業をおよそ1兆円で受注しました。

鉄道事業の今年度の売り上げは、2年前のおよそ3倍に当たる5000億円を見込んでいて、主力事業の1つと位置づけています。さらに去年9月には、イギリス北部のニュートン・エイクリフに鉄道車両を量産する新たな工場を造り、生産を始めました。将来的には、この工場をEU全域に鉄道車両を売り込んでいく拠点にしたい考えです。

しかし、イギリスがEUを離脱した場合、EU域内への輸出に新たに関税がかかる可能性があり、イギリスに工場を置くメリットが生かせなくなる懸念があるとしています。

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日立製作所の東原敏昭社長は5月18日の記者会見で、「イギリスがEUの一員であるということで鉄道工場を造り、そこからEUに展開する前提でいるので離脱は絶対に反対だ。イギリスが離脱することで、ほかにも離脱したいという国が出てこないかなど、ヨーロッパ全体が不安定感を増すのではないかと心配している」と述べました。

また、中西宏明会長は5月11日付けの英フィナンシャル・タイムズに「日本の投資家はイギリスのEU残留を望んでいる」と題した文章を寄せました。この中で、「日立にとって、イギリスは鉄道と原子力発電という大型プロジェクトの中心である。EU市場全体を見据えて最良の拠点だからイギリスに投資をした」として離脱に対する懸念を示しています。

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金融への影響も

金融機関や金融市場への影響も心配されています。世界中の金融機関が集まり、イギリスの競争力の源泉となっている金融街「シティー」。ここに拠点を設ければ、金融機関はEUのほかの27か国でも許認可を求められず、自由にビジネスを展開できます。イギリスがEUから離脱すれば、その権利は失われ、多くがフランスやドイツに移転すると指摘されています。

さらに市場関係者は、仮にイギリスがEUを離脱すれば、金融市場が混乱すると懸念しています。それを踏まえて、全国銀行協会の國部毅会長は5月19日の記者会見で次のように述べました。

「仮に、イギリスがEUから離脱することになれば、短期的にはイギリスで通貨安や株安の進行、それに成長率の鈍化などが懸念され、こうした悪影響がヨーロッパ経済、あるいは世界経済に波及する可能性がある。日本では円高や株安が進む懸念もある。日本の銀行の事業が直ちに大きな影響を受けるとは考えていないが、中期的には大きな影響があるイベントだと認識していて、よく注視していきたい」

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投票は6月23日

イギリスの国民投票では、「残留派」と「離脱派」が世論を二分する激しい論戦を繰り広げ、先週、発表された3つの世論調査では、1つは残留がリード、1つは離脱がリードし、残る1つはともに41%できっ抗するなど、予断を許さない状況が続いています。

JETROは「国民投票で離脱が決まった場合も、実際に関税の扱いや移民の規制などは、正式に離脱する2年後までにイギリスとEUとの間で協議されるとみられる。今の時点ではどうなるか不透明だが、日系企業は事業展開の在り方を見直す必要が出てくるだろう」と話しています。

イギリス国民の判断しだいでは日本企業にも大きな影響が出るだけに、6月23日の国民投票から目が離せません。

  • ライブブログ イギリス国民投票

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    国民投票でEUからの離脱を選択したイギリス。世界の政治や経済に大きな影響を与えています。関連ニュースを時系列でまとめています。

下村直人
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