常陸大宮市 不妊治療の費用を全額助成 独自支援策で移住者も
不妊治療は、しばしば、その費用が高額になって治療の体への負担だけでなく金銭面の不安に苦しむ人が少なくないのが現状です。
そうしたなか、茨城県常陸大宮市は、独自の子育て支援策として、不妊治療の治療費を全額助成する事業を行っています。
助成を受けて治療を続けたいと、東京など、市の外から移り住む夫婦も出るなど、注目を集めています。
(取材:NHK日立支局 相野台弘記者)
常陸大宮市に住む、みかさん(40)は、4年前から不妊治療を続け,ことし1月待望の第1子を出産しました。
(みかさん)
「あきらめたくなかったですね。やっぱり後悔したくなかったのが一番ですね、あのとき、もう少し頑張っていればって、後から思いたくなかったです。」
治療を続ける中で、みかさんにとって大きな課題となっていたのが治療費です。
多いときでは、月に10万円を超える治療費がかかっていました。
(みかさん)
「採卵したんですけども、そのときは40万円ぐらいかかったと思います。金額を見て、ちょっと驚きました。」
治療を続けても妊娠の兆候が見られない日々が続き、落ち込む日もあったといいます。
(みかさん)
「先が見えないっていうところが一番不安で、それとともに金銭面もかかりますので、そこの不安も大きかったです。」
【常陸大宮市の不妊治療費助成事業とは】
不妊治療は、ことし4月から保険適用が拡充され、自己負担は原則3割となりました。
しかし、保険適用外となる治療と組み合わせて行うこともあり、治療を受ける人たちの医療費が高額となり、経済的な負担を抱えるケースも少なくありません。
こうしたなか、不妊治療を受ける人の経済的負担を軽くしようという独自の子育て支援策を進めているのが、常陸大宮市です。
昨年度から始めた「不妊治療費助成事業」は、保険適用の治療は自己負担分の3割が全額助成され、さらに、保険適用外となる先進医療についても全額助成の対象となります。
具体的には、妻の年齢が43歳未満の方が対象で、夫婦双方が市内に住所があり、生活実態がある人であれば助成を受けることができます。
また、保険適用の治療は、妻の年齢が40歳から42歳の方が3回、39歳までの方が6回と保険の対象となる回数が決まっていますが、常陸大宮市では6回を超えたあとの、10割の自己負担分についても全額助成することにしています。
担当の健康推進課には、問い合わせが増えてきたといいます。
(常陸大宮市健康推進課 海老根恵子課長)
「近くにある医療機関のお問い合わせだったり、そのまま自分の医療機関で治療を受けたい場合は対象になるのかといった具体的な問いあわせもいただいています。
行政ができるサポートとして、経済的な負担を少しでも軽減して、子どもを産みたい育てたいと思う方に手を差し伸べるところでの制度として行っていきたいと思っています。」
【移住を決意】
みかさんは治療を受ける中でこの事業を知りました。
助成をうけるため、ひたちなか市から常陸大宮市へ、夫婦で移住することを決意しました。
(みかさん)
「その制度を知ったときは本当に心が救われて、とても感謝の気持ちでいっぱいになりました。自分の身体だけのことを考えて治療していけるので、精神的にすごく軽くなったと思います。」
その後、治療を続け、妊娠の兆候が見られたみかさん。ことし女の子を出産しました。
未来に花が咲いてほしいと願いをこめて「咲来(さくら)」と名付けました。
(みかさん)
「すごく感動して涙が出ました、うまれてよかった。つらい治療をした中で、やっとできた子どもなので、毎日を大切にしたいなと思います。」
常陸大宮市によりますと、治療を続けたいと水戸市や大子町、さらに東京などから、これまでに9組の夫婦が移住してきたということです。
【事業に込めた思いは】
この助成事業を進めてきた常陸大宮市の鈴木定幸市長。
実は、自身もかつて、家族とともに不妊治療を行ってきました。
(鈴木定幸市長)
「不妊治療は、かなりの出費となります。しかも、それを自己負担でやったとしても、子どもを授かる保証はありません。身体的な苦痛も伴うこともあります。少なくとも金銭的な部分ぐらいは、行政で助けてあげるべきではないかと考えたのです。」
鈴木市長は、治療を続け、長男を授かりました。同じ悩みを抱える人たちを少しでも減らせればという思いが、助成事業の背景にあるといいます。
そして、不妊治療への支援を通じて常陸大宮市に魅力を感じ、市内に暮らす人が増えていくことも期待しているといいます。
(鈴木定幸市長)
「不妊治療の全額助成っていうのは始まりに過ぎません。生まれてから、育児、学校教育、そういった一連の流れの中での政策を、これからも研ぎ澄ませていきます。不妊治療がきっかけで、この町に住んでいただけた人々に本当に満足してもらえれば、それは、ありがたいことだな、うれしいことだな、そういう気持ちを持っています。」
市によりますと、この事業には、支援を受けようと、これまでにおよそ60人が申し込んだといいます。
多くは市内に住んでいる人ですが、市の外から移住したいという人については、常陸大宮市では移住促進についても力を入れているため、こうしたノウハウを生かして移住の担当課が空き家の情報を提供するなど支援しています。
また、育児の悩みも相談できるこどもセンターもことし開設されました。
一方、茨城県によりますと、不妊治療の助成事業は県内それぞれの市町村で行っています。
1回の治療につき2万5000円から多い場所では20万の金額を助成しているということです。
ただ、それぞれの自治体により、助成事業受けられる条件や金額なども異なりますので詳細については各自治体に確認が必要だということです。