「これは、私たちの話。」
…鈴木聡(脚本家)
「戦前の話?月曜日の九時台で?」というのが、プロデューサーに原作を提示された時の率直な感想でした。目新しい趣向や最新の風俗、つまり現在形であることを競い合うテレビドラマの世界で、ずいぶんアンティークな話だな、と思ったのです。
「いや待て。こういうことはNHKでしかできない。意義深い」と気を取り直し、林真理子さんの小説「本を読む女」のページを開いたら、アンティークなんてとんでもない、むしろ現在そのもののような主人公がそこにはいたのです。
主人公の万亀は、モダンガールの代表・林芙美子ほど破天荒さこそありませんが、常識にとらわれない自立した精神をもつ、昭和という時代が生んだ女性の一人です。
結婚に過剰な夢は抱かない。「有名になろう」とか「大金持ちを目指そう」などという大それた野望も持たない。かといってクール一辺倒というわけではなく、突飛な夢想をしたり、「おいおい」と心配になるほど大胆な行動に出たり、なんだかユーモラスな一面もある。これ、どういう人かというと、自分の資質や個性を冷静に見極めつつも、いつもあたふた「私の生きる道」を探している人なのですね。妙に親しみが持てる。というよりむしろ、現在の私たちの姿そのものです。
青空が似合うデモクラシーの時代から、暗雲たちこめる戦時下へ。時代に流され飲み込まれる家族や友人たちとは対照的に、万亀は粘り強く自分らしさを貫きます。その手にはいつも本がある。本を読み続けることで万亀は、考え、時代や常識と戦い、ついには自分らしい幸福を手に入れる。そうした主人公の生き方は「豊かさより自分らしさ」を追い求め始めた私たちの姿そのものです。
そんな原作のスピリッツを、できるだけ幅広い世代に、できるだけ楽しく面白く伝えるのが私の仕事。戦前という時代にノスタルジーを感じる方々はもちろん、戦争や昭和を知らない若い皆さんにも、是非、見ていただきたいと思います。 |