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ドラマのみどころ

原作者のことば
…林真理子

 この「本を読む女」は、わたしにとってとても大切な本です。子どもの頃の「いつか母を描きたい」という夢が実現出来ましたし、私の作家としての成長を助けてくれた一冊です。
 今回菊川怜さんという美しい知的な女優さんが演じてくれることになり、本当に嬉しく思っています。今年88歳になる両親と、一緒に放映を待ち望んでいます。美しい山梨の風景も知って下されば幸いです。

 

「これは、私たちの話。」
…鈴木聡(脚本家)

 「戦前の話?月曜日の九時台で?」というのが、プロデューサーに原作を提示された時の率直な感想でした。目新しい趣向や最新の風俗、つまり現在形であることを競い合うテレビドラマの世界で、ずいぶんアンティークな話だな、と思ったのです。
 「いや待て。こういうことはNHKでしかできない。意義深い」と気を取り直し、林真理子さんの小説「本を読む女」のページを開いたら、アンティークなんてとんでもない、むしろ現在そのもののような主人公がそこにはいたのです。
 主人公の万亀は、モダンガールの代表・林芙美子ほど破天荒さこそありませんが、常識にとらわれない自立した精神をもつ、昭和という時代が生んだ女性の一人です。
 結婚に過剰な夢は抱かない。「有名になろう」とか「大金持ちを目指そう」などという大それた野望も持たない。かといってクール一辺倒というわけではなく、突飛な夢想をしたり、「おいおい」と心配になるほど大胆な行動に出たり、なんだかユーモラスな一面もある。これ、どういう人かというと、自分の資質や個性を冷静に見極めつつも、いつもあたふた「私の生きる道」を探している人なのですね。妙に親しみが持てる。というよりむしろ、現在の私たちの姿そのものです。
 青空が似合うデモクラシーの時代から、暗雲たちこめる戦時下へ。時代に流され飲み込まれる家族や友人たちとは対照的に、万亀は粘り強く自分らしさを貫きます。その手にはいつも本がある。本を読み続けることで万亀は、考え、時代や常識と戦い、ついには自分らしい幸福を手に入れる。そうした主人公の生き方は「豊かさより自分らしさ」を追い求め始めた私たちの姿そのものです。
 そんな原作のスピリッツを、できるだけ幅広い世代に、できるだけ楽しく面白く伝えるのが私の仕事。戦前という時代にノスタルジーを感じる方々はもちろん、戦争や昭和を知らない若い皆さんにも、是非、見ていただきたいと思います。
 

 

「夢見る青春群像と家族たちの昭和史」
…浅野加寿子(エグゼクティブプロデューサー)

 昭和のはじめ、山梨・老舗和菓子屋、美人四姉妹、祖母と母の姑嫁関係、東京進学、相馬での“女坊ちゃん”時代、戦中・戦後の様々な試練…。8年ほど前、初めて原作を手にした時から、いつかはドラマ化したいと考えていた作品でした。当代きっての人気作家のひとり林真理子さんのお母様の半生記は、庶民の昭和史としても興味深いものです。
今春“ヒロイン万亀”を山梨市にお訪ねしましたが、戦後開店した“本屋さん”は、70歳の時にご自分の定年と思い、閉店なさったとか…。セピア色のアルバムを前に、しっかりとした口調で当時を語るお姿に、88歳の今も文学少女の面影は健在でした。
 甲州といえば、葡萄、そしてワイン。取材を進めるうちに、戦中に「ブドウは兵器だ!」というスローガンがあったことや、ワイン醸造中にできる“酒石酸”が、海軍のソナーの材料として使われたことなど知られざるエピソードが出てきました。原作にはないのですが、このドラマ中に、田部ワイン工場を設定し、息子末吉をワインの販路を拡げるために活躍する青年として描いています。
 鈴木聡さんのモダンで軽妙な脚本、そして菊川怜さんを始めとした魅力的で多彩な出演者の皆様方が揃いました。
 初秋、葡萄は紫色に熟し収穫の時期を迎えます。四季の移ろいの中に、様々な“葡萄たち”の冒険をお楽しみ下さい。

 

演出にあたって
…大友啓史(演出家)

 山梨で取材していたスタッフが面白い話を見つけました。
 ワインを作る過程で生まれる「結晶」が、戦争中軍事物資として利用されていたという話です。平和の象徴であるかのようなワインにそんな歴史があると知ったとき、このドラマのモチーフが決まりました。また、ある方に伺ったこんな言葉も心に残りました。「ワインは飲む環境や相手によって、味が変わる。それは、飲む人の心の状態に依るのだ。」と。戦時中、「味」が変わったのはワインだけではありません。一方で、ドラマの主人公・万亀は、時代に委ねず、「変わらず」本を読みつづけます。その姿は、「変わらぬ心」を持ち続けられるよう、時代に対して独りで立ち向かっているようにも思えます。変わらない心、踏みとどまる勇気・・・。原作、脚本の中にあるそんな「隠し味」を上手に表現できれば、と思います。

 

 
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