![]() |
「希望の下に―」…黒土三男(脚本家) 「ドラマ人間模様」。「土曜ドラマ」。言うまでもなく、これらはテレビドラマ史上に残るドラマだと思います。そして、NHKにしか作ることの出来ないドラマだと確信します。 世の中の流れなのでしょうか、昨今のNHKドラマは随分変わってしまった気がしてなりません。極めて個人的な思いですが、悲しい気がします。 ドラマ「蝉しぐれ」は、NHKにしか作ることの出来ないドラマだと心から思っております。それだけに恥ずかしくない脚本を書かねばと、苦しみました。なにより藤沢周平さんの澄み切った世界に、届けばという願いを込めて書きました。 このドラマを観る多くの方々が、感動して下されば、成功ですそうなれば再び、NHKにしか作ることの出来ないドラマが、甦るのではと、希望が持てます。それは更に、今のテレビドラマ界に、再び一条の光が射すことになるのではないでしょうか。 映像化が実現する前に亡くなられた藤沢周平さんに、このドラマを捧げたく思います。 |
| 演出のことば…佐藤幹夫(演出家) 三十代の頃、藤沢作品に出会ったが、その頃の私には狭い人情世界で窮屈に生きる登場人物たちが肌に合わず、感銘を受けることが出来なかった。そもそも、江戸ものの時代小説はセセコマシイ感じがして嫌いだったのである。六十代に近づき、「蝉しぐれ」の演出で藤沢作品と再会することとなって、「権力者の不条理な仕打ちに耐え、自らの人間性だけを矜持にして生きる主人公」に、素直に感情移入してしまった。不況が続くこの時代のせいなのか、それとも私自身の境遇の変化なのか。 父親を切腹させた権力者への単なる復讐劇ではなく、人間の業や権力構造そのものへの諦念を、人間としてのリアリティを持ちながらも、なおも自分の人生を肯定しようとする牧文四郎のビルディング・ストーンの格調の高さに、ある「救い」さえ感じたのである。どんな境遇でも肩肘張る必要はないが、もっと背筋を伸ばして生きられるのではないか。そんな藤沢さんの声が聞こえた。 |
![]() |
|
自殺者が三万人を超える時代である。精神的な自死者の数を数えるのは空恐ろしい。そんな時代にこそ、藤沢作品は輝きを増すのではないか。そして「蝉しぐれ」の映像化は、貧困や圧制に耐えながら気高く凛として生きた日本人の姿を、再び思い返すいい機会になるのではないか。そう考えると、私の中で「蝉しぐれ」を映像化するときのスタンスが決まった。 収録を終え、編集し音楽をつける過程で、自分で撮っておきながら感動する場面に多く出会った。主人公文四郎を演じた内野聖陽の魂の熱演、お福の水野真紀の清潔な存在がそれを可能にした。また二人の子役、森脇史登、伊藤未希のイノセントな感じが少年少女の淡い恋心を、郷愁を誘う感じで成立させた。村上弘明、柄本明の存在がこのドラマを分厚くしてくれたのはいうまでもない。 藤沢周平さんがどんな気持ちで「蝉しぐれ」をお書きになったかは分からないが、暗闇の中で一条の明かりともいうべき愛を頼りに生きる主人公の姿に、映像化をお許しいただき納得していただけるのではないか、今はそう思っている。 |
|
制作のことば…菅野高至(制作統括) この物語は、人を愛すること、人が人らしく生きることを真摯に問いかけるものです。原作の初出は1986年(昭和61年)7月から1年間、山形新聞の夕刊連載でした。86年といえば、都心の土地高騰が地方にまで広がり、日本中がバブル経済に狂乱していた時代です。そんな時期に、藤沢周平さんが「蝉しぐれ」を書き続けていたことに、今あらためて深い敬意を抱かざる得ません。海坂藩は、いわば日本の原風景なのです。 そして又、藤沢周平さんは「小説のもつ娯楽性を大事にしたい」が持論でした。「蝉しぐれ」では、ふくと文四郎の純愛があります。もう一つは、「秘剣村雨」です。しかし、原作では何故かほんのさわりしか描かれていません。で、このドラマの「剣術指南役」を成田市の天真正伝香取神道流・師範の大竹利典氏にお願いして、神道流の技から「秘剣村雨」の殺陣を発想しました。 黒土三男さんが思いを込めて紡ぎ上げた脚本を、出演者の皆さんが、それはそれは素敵に演じて頂きました。収録中の1ヵ月半、まさに役の文四郎が如き気合で、毎回の激しい殺陣と静のお芝居を演じた内野聖陽さん。ふくの赤ん坊が泣き止むのを静かにじっと耐え、変わらぬ恋心を演じた水野真紀さん。初の時代劇で、哀しくも芯の強い女心を演じた鈴木杏樹さん。飄々とした与之助を演じた宮藤官九郎さんも初の時代劇でした。次の機会には時代劇の脚本でお会いしたいものです。辛いお話の中で、登場すると心が軽くなる逸平役の石橋保さん。収録でも、母として「内野文四郎」を支え続けた竹下景子さん。そして、大先輩の俳優としても、文四郎に大きく立ちはだかった里村役の平幹二朗さん、圧巻でした。5月なのに冬のような夜間ロケ。しかも長時間で大風に大雨、茨城県伊奈町や千代田町の地元エキストラの皆さんが最後まで本当に良く頑張ってくださいました。 1993年の金曜時代劇「清左衛門 残日録」の制作では、藤沢周平さんに教えを請うことが出来ました。ご存命であれば、今回も教えを請いたきことが多々ありましたが……。亡くなられて、はや5年半。天国の藤沢さんにも、ドラマの「秘剣村雨」を楽しんで頂けたものと信じております。 |
表紙 | みどころ | キャスト | 次回予告 | よくある質問 | 掲示板
お問い合わせは お問い合わせフォーム から。すべてのメールにお返事出来ない場合がございます。
Copyright (c) 2004 NHK(Japan Broadcasting
Corporation) All Rights Reserved.