『つばさ』のスタッフから、きな粉を使った『千日草』という名前の和菓子を創作してほしいと言われたときは、小林先生も正直困ったそうです。きな粉は、脇役的な使い方をするのがほとんどで、メインで使うことはあまりない素材だからです。
「最初は、きな粉でも『青きな粉』と呼ばれる緑色のきな粉を使って『千日草』の葉の部分を表現しようと考えました。しかしそれをスタッフの方に伝えると、きな粉はやはり黄色でなければ、きな粉らしく見えないので、ふつうのきな粉を使ってほしいとのことでした。悩みましたね(笑)。 しかも、要望はそれだけではなかったんです。食べたらおいしいけど、それほど売れない和菓子という設定なので、見た目はあまり格好良く作らないでほしいともお願いされました。さすがに、こんな注文ははじめてですね(笑)。」
そこで、写実的に『千日草』という花を表現するより、花の円い形と色をイメージさせる程度にとどめ、きな粉をより象徴的に見せる和菓子にしようと考えました。 まわりは餅米、いわゆる道明寺です。その中には粒あんが入っていて、上の丸い部分がきな粉です。丸くくり抜いた厚みのなる型紙を餅米の上に置いて、そこにきな粉を振りかけます。そして、しばらく時間をおいて、餅米の水分できな粉が固まるのを待ちます。ふつうは振りかけるだけのきな粉を円い形にするのは、意外に手間暇のかかる作業なんです。 もしこの和菓子をどこかのお店で見かけたら、きっと、きな粉に特別な思いがあって、生産性など考えずに, わざわざ作ったんだろうとプロの和菓子職人なら思うはずです」。

『千日草』は、会えない娘のことを思い、愛情を込めて梅吉が創作した和菓子です。花言葉は、“変わらぬ愛”。梅吉は、紀菜子の成長や幸せを願いながら、きな粉を手間ひまかけて1つ1つ丸い形にしていったのでしょう。
小林先生は、梅吉の紀菜子への変わらぬ愛を、このようにみごとに1つの和菓子で表現されました。
